第180号
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第180号
2024・01・25更新
能登半島地震=石川県能登半島
1月1日の午後4時過ぎ、石川県能登半島を震源とするマグニチュー ド7.6の地震が発生。能登半島北部では、2020年12月ごろから地震活動が活発になり、23年12月末までに震度1以上の地震が506回発生した。23年5月にはマグニチュード(M)6・5の地震が起き、最大震度6強を観測。今回はM7・6と規模が大きい。なぜ、警戒と予防措置がとれなかったのか。
新年のごあいさつ
茨城県自治体問題研究所
理事長 田中重博(茨城大学名誉教授)
あけましておめでとうございます。
最初に、年頭に能登半島を襲った大地震で亡くなられ、被災された大勢の方々に心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。政府と民間一体となって一刻も早い救助、支援及び復興のための措置が取られることを望みます。
昨年始まったガザ地区へのイスラエルのジェノサイドと一昨年から続くロシアのウクライナ侵略は21世紀の平和の国際秩序に対する挑戦であり、反戦平和の国際的な世論と運動を一層高め、一日も早く平和を取り戻さねばなりません。
国内でも、1年前に岸田政権が安保3文書の改訂によって「敵基地攻撃能力」保有とそのための軍事費の倍増(5年間で43兆円)を打ち出しました。これは、憲法9条に違反し、専守防衛をかなぐり捨て、日本列島をミサイル基地化し、アメリカの戦争に巻き込む「戦争する国づくり」であり、市民の力で必ずストップさせなければなりません。平和がなければ市民の平穏な暮らしも地方自治もあり得ません。
今、自治体の公務と自治が切り捨てられ、縮小されつつあります。
沖縄辺野古米軍基地建設をめぐる「代執行」を用いた埋め立ての強行は、沖縄県民の民意を無視し、地方自治と民主主義を蹂躙する蛮行であり、政府に対し強く抗議し、即刻中止するよう要求したいと思います。自治体職員の削減と長時間労働の広がりと非正規化・男女の格差拡大が全国的に進められ、行政の民間委託・アウトソーシングが拡大していることも自治と公務の縮小にほかならず、憂慮すべき事態といわなければなりません。
また、「自治体行政のデジタル化」によって、住民への部分的な「利便性」の供与と引き換えに企業への新たな収益源の創出と個人情報の保護が侵害され、自治と市民参加が脅かされる恐れがあります。
このような国の動きに対抗し、自治と公務を市民の手に取り戻す市民運動・労働運動、行政の取り組みが全国各地で展開されています。
本県でも県民の暮らし・人権・平和・地方自治を求める運動と連帯が広がっています。
東海第2原発の防潮堤工事施工不良の告発による原電の責任追及と再稼働阻止の世論と運動の高まり、ヤマト運輸の非正規労働者の解雇撤回の闘い、全医労傘下の県内医療施設での30年ぶりのストライキの決行、県内市町村での学校給食無償化の実現、ガザ・ウクライナに連帯する反戦平和の市民運動、百里基地夜間・早朝訓練反対運動、水戸市民会館・日立市産業廃棄物最終処分場・大津漁港労働者の不当解雇をめぐる裁判闘争の進展などです。
本研究所は、民主的地方自治の実現を求める機関として、本年は、「自治体行政のデジタル化」と気候危機をテーマとするまちづくり学校を開催し、東海第2原発の広域避難計画の調査研究、会員読者の組織拡大、情勢に対応した学習会・講演会の企画、機関紙「いばらきの地域と自治」の発行などに取り組みたいと考えています。
本年もよろしくお願いいたします。
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能登半島地震の被災状況と今後の対策課題
石川県によると1月18日午前9時現在、能登半島地震による死者は計232人。住宅被害は2万7963棟となった。地震のためとは断定できないが連絡がとれない安否不明者は計22人。避難者17220人。負傷者1055人。
岸田首相は政府の非常災害対策本部会議で、石川県の被災6市町の首長とオンラインで意見を交わした。輪島市、珠洲市、穴水町、能登町、七尾市、志賀町の首長が参加し、全員が上下水道の早期復旧への支援を求めた。輪島市の坂口茂市長は「市内全域に甚大な被害が及んでいる。(応援)職員の派遣や財政支援など過去の前例にとらわれない大胆な支援を」と訴えた。珠洲市の泉谷満寿裕(ますひろ)市長は「災害の規模が大きすぎてマンパワーが少なすぎる状況だ。上下水道と道路の復旧について国に代行していただけないか」と要望した。
穴水町の吉村光輝町長は、地震を機とする人口の流出で、小売業や飲食・宿泊業、医療福祉サービスなどの撤退が進むことを懸念。「サービス産業の撤退は、地域の雇用機会の減少へとつながり、さらなる人口減少を招きかねない」と訴えた。
京都大防災研究所の西村卓也教授(測地学)は「これまで能登半島で起きていた地震とメカニズム的には同じだが、ここまで規模が大きいものが起こるとは思っていなかった。日本海側で起こる地震として最大級に近い」と話す。日本海側で津波被害を招いた北海道南西沖地震(1993年、M7・8)や日本海中部地震(83年、M7・7)に近い規模。これまでの群発地震の震源域を越えて、断層が動いた可能性があるという。防災白書(平成26年度版)によると、世界で起きたマグニチュード6以上の地震のうち、約18%が日本周辺で発生している。世界でも有数の地震多発地帯となっている。今後も様々な巨大地震が予測されている。政府は、今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を公表しており、太平洋側の大部分で26%以上、しかも一部の都市では「80%以上」と非常に高い数値となっている。
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今月の俳句
玉砂利を踏む音高し今朝の春
払暁(ふつぎょう)の白の極みの花八手
去年今年年金暮しにも慣れて
使はざる鍬掛けてある初明かり
晩年の時間ゆっくり日向ぼこ
高 島 つよし
本名 高島剛 常総市在住、句歴七十年 元茨城県職員 元小貝保育園長、当研究所顧問
寄 稿
海と森林に恵まれた国の未来にむけて
二平 章(茨城大学人文社会科学部客員研究員)
日本は「小さな国」と言われるけれど
「水の惑星」といわれる地球はその表面積の71%が海で29%が陸地です。陸地のうち森林面積は40 億ha で、全陸地面積の31% を占めます。日本は南北に連なる多数の島々からなり、その面積は38 万km2 で世界第61 位です。しかも山が多く地形が急峻なため農地面積は少なく、国土面積が日本と比較的ちかいフランスやドイツ、イギリス、イタリアなどは国土に対する農地面積割合が42%~71%であるのに比べ、日本はわずか12%です。
こうした数字から、日本は「小さな国」であるというイメージが一般的です。しかし、海や森林に目をむけるとどうでしょうか。
漁業資源に対する沿岸国の管轄権が認められる2 0 0 海里(3 7 0 km)までの海洋面積は4 4 7 万㎢ と陸地面積の1 2 倍で世界第6 位です。また、国土に対する森林面積の割合は、世界平均の3 1%やヨーロッパ諸国の12 %~311%に対して日本は68%と、OECDに加盟する先進3 7 カ国のなかではフィンランド( 7 4 % ) やスウェーデン( 6 9 % ) に次ぐ第3 位の水準です。このように、日本は世界のなかでも海と森林に恵まれた自然豊かな国であるといえるのです。
海や森林の恵みは魚介類・木材だけではない
人間にとって海は重要な食料資源となるさまざまな魚介類を、また、森林は人間生活に大切な木材などを提供しています。海や森林はこれら人間生活にとって直接的に役に立つ生産物を供給するだけではありません。
地球表面の7 割を占める広大な海は常に大気中に水を蒸発させ、雲をつくり地上に雨を降らせ、川水や地下水として再び海に戻る巨大な「水の循環」をつくりだします。そして豊かな森林はこの雨水をたくわえ少しずつゆっくりと水を流す「緑のダム」として洪水や土砂流出を防ぎ国土を保全し、そして森林のつくりだす栄養を海に供給します。さらに、海や森林は大気中の二酸化炭素を大量に吸収し、地球温暖化防止に貢献しています。
海や森林は環境の多様性とともに多くの生物種が棲息する生物多様性の高い世界でもあります。多様な生物種は複雑な食物連鎖関係を通して海と森林にそれぞれ独特のエコシステム(生態系)をつくりだします。現在までに知られている海の生物種は2 3 万種ですが、とくに、日本の2 0 0 海里内は海洋生物における世界最大の生物多様性をもつ海で、
地球全体の海洋面積のわずか1 . 5 % の海に全海洋生物種数の1 5 % が分布するホットスポットなのです。また、世界の森林は他の陸地域に比べはるかに多くの生物が生息する「生物の宝庫」であり、陸域の生物種の8 ~ 9 割にあたる1 6 0 万種に生息・生育の場を提供しています。
持続する自然環境、持続可能な林業・漁業を実現するには
1 9 6 2 年にレーチェル・カーソンは「沈黙の春」で、「安全」の追求をないがしろにし「利便」を求める人間社会が、地上生物を農薬により滅ぼしている世界を書き上げました。人間の文明は本来、人間が自らの生命と生活の安全のために、自然に働きかけてつくりだしたものですが、「安全」を無視し「利便・効率・利潤」のみを追求し続ける人間の営みが、人間の生存そのものを脅かす「環境の危機」を生み出していることを指摘したのです。
1 0 年後の1 9 7 2 年にはローマクラブが資源と地球の有限性に着目し「人口増加と環境破壊により、成長が1 0 0 年を待たずに限界に達する」とする「成長の限界」を発表、地球環境の危機を世界に訴えました。そして、1 9 8 0 年にはI U C N ( 国際自然保護連合)が「世界環境保全戦略」を発表し、キーワードとしてサステナブル・ディベロップメント( S D:持続可能な開発)の概念をはじめて提示したのです。
S D は、水や物質の循環、および生物の多様性とその連関から成り立つエコシステムを保全し、その枠のなかで人間のニーズを満たしていくような発展をはかることです。エコシステムは地球の生命維持システムともいえ、その維持は持続可能な世界をつくるための1 7 の目標であるS D Gs(持続可能な発展目標)の基本ともいえます。
「成長の限界」報告から5 0 年、世界人口は、今や8 0 億人を超えたとされ、大気中の二酸化炭素も急速に増え続けています。人間の生活や経済活動により農地や森林などの陸地、漁場となる海をどれだけ使用しているかを示す環境指標「エコロジカル・フットプリント」では、人間はすでに地球の環境容量の1 . 8 倍の負荷を地球に与えているとされています。
このような時代に生きている私たちだからこそ、これからどのようにすれば持続可能な地球環境、そして自然豊かな日本の海や森林生態系を次世代に引き継いでいくことができるのか、また、その海や森林を基盤とする漁業や林業などを持続可能な産業として発展させていくことができるのかを、考え続けていかなければならないのだと思います。
注釈:
この文章は、2023年4月に発刊した、二平 章・佐藤宣子編著「世界の食・農林漁業・環境 第3巻“ほんとうの”エコシステムってなに?―漁業・林業を知ると世界がわかるー“」(発行:農山漁村文化協会)の序文として書いた文章を一部改変したものです。機会がありましたら本書を手に取って読んでいただければ幸いです。
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イベント
第35回 まちづくり学校
自治体行政と自治体DX
まちづくりについて ごいっしょに考えてみませんか!
まちづくりは、住民のみなさんのご意見とご協力、そして、ご支援が大変重要です。自治体だけでは、まちづくりは決して出来ません。“より良い”まちづくり、“住み良い”まちづくりを行うためには、住民のみなさんと私たち自治体職員とのつながりが大変重要だと考えます。 私たち自治体職員の現場の声と住民のみなさんの貴重なご意見を聞きながら、『まちづくり』について、ごいっしょに考えてみませんか? たくさんの皆様の参加をお待ちしています。お気軽にご参加しください。
日 時 3月 2日(土) 10時開校( 9時30分 受付開始)
場 所 結城市民文化センター「アクロス」
(結城市中央町2-2 ℡0296-33-2001)
講 演 本多滝夫 氏(龍谷大学教授)
「自治体行政のデジタル化とマイナンバーカード」
資料代 500円
主 催 第35回まちづくり学校実行委員会 後援 結 城 市
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イベント紹介
地方議会議員政策セミナー
予算議会に向けて4年ぶりにリアルで開催
日 時:2024年1月29日(月)・30日(火)
会 場:1日目 喜山倶楽部「平安の間」日本教育会館9F2日目 日本教育会館 千代田区一ツ橋2-6-2
1日目 全大会 13:30~16:30
第1講義 地方財政対策を中心とした2024年度政府予算案の特徴
森 裕之 立命館大学政策科学部教授
2024年度政府予算案の概要とポイントを解説します。政府予算案の一部となる地方財政対策をみることにより、地方財政全体がどうなるのか、そして各自治体でどのような対応が求められるのかを考えます。
第2講義 介護保険制度の動向と自治体おける第9期以後保険事業の改善をざして
日下部雅喜 大阪社会保障推進協議会 介護保険対策委員長
2024年度の介護保険制度見直しで介護保険制度がどう変わろうとしているのでしょうか。利用者の負担増や介護保険料の引き上げ、「総合事業」(介護予防・日常生活支援総合事業)の見直しなどは自治体の介護保険事業に影響を与えます。
2日目 分科会 9;30~5:30
(1)自治体財政の基礎講座 ~しくみから分析方法で~
森 裕之 立命館大学政策科学部教授
自治体の予算書・決算書を読むために必要な財政の基礎知識をやさしく解説します。午前は、初日で学んだ自治体財政の知識に加え、重要な財政指標や財政収支を学びます。午後はグループに分かれて実際の「財政状況資料集」から当該自治体の特徴をつかみ、政策立案を考えます。予算議会にむけて、実践的な議員力をアップする基礎講座です。
(2)自治体行政のデジタル化政策、概要と基本課題
政府の推し進める行政のデジタル化は、地方自治否定の「標準化」問題、新たな自治体リストラ「令和版デジタル行財政改革」、行政保有データの企業提供など公共サービスの企業奉仕化、個人情報保護を後景とする基本的人権の侵害など自治体運営に大きな影響を与えます。デジタル化問題全体の概要と自治体における個人情報保護の課題を学びます。
(3) 公共交通の諸問題・地域交通政策づくり
可児紀夫 愛知大学地域政策学センター研究員
なぜ、公共交通の衰退が1960年代から続いているか明らかにし、地方ローカル鉄道、財源問題、地域公共交通活性化法など法制度、通学路や歩行・自転車の安全など地域の交通問題についてどのように地方自治体や地方議会・議員は対応したらいいか考えす。
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今月の 川柳
ガザガザと線引きされて命絶え
ひと刷毛の闇につらなる軍事色
地震事故竜もたまげて宙に舞い
埋め立てのどこに消えたかSASの声
金権のメダルもらって檻に入り
新しい大本営という日の出
ブギウギに涙こぼれて畳ぬれ
万博費天井しらずの浪花節
政とカネどこ迄つづく闇の道
こがらしに肌を切られてマスクかけ
泉 明 羅
(泉明羅・本名 福田正雄 水戸市在住、句歴 四十二年、所属 元吉田川柳の会)