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第85号

月刊「いばらきの地域と自治」既刊号すべて

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第85号

2016・01・24 更新

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新年のごあいさつ

茨城県自治体問題研究所理事長 田中 重博

 明けましておめでとうございます。
 昨年は、安倍内閣が国民多数の反対を押し切って憲法違反の安保関連法=戦争法を強行「採決」しました。また、沖縄県民の地方自治権を踏みにじり、辺野古基地建設を推進しようとしています。さらに、川内原発をはじめ原発再稼働を進め、農業など地域産業や食の安全、医療や地域経済の健全な発展を破壊するTPPの大筋合意も行いました。
 しかし、このような安倍内閣の暴走に対峙し、とりわけ戦争法反対の運動では、多くの若者やママ、学者や労働者、市民らが主権者として自主的、自覚的に立ち上がり、その大きなうねりはまさに日本における「新しい市民革命」の始まりを予感させるものでした。
 今年の夏に行われる参議院選挙(衆参同日選挙の可能性も取りざたされています)では、安倍政権は改憲勢力を拡大し、「戦争する国づくり」を一層推進するため、明文改憲に踏み切ろうとしています。それに対し平和・民主勢力は、憲法と平和を守るために改憲勢力の拡大を阻み、戦争法を廃止し、立憲主義を取り戻す政府の実現を目指しています。まさに来たるべき選挙は、この国の未来を占う重大な政治決戦になるに違いありません。
 一方、「地方創生」と地域の再生の課題をめぐり今年は、どのような、だれのための地域経済の持続的な繁栄を図っていくのかが、より厳しく問われる年となるに違いありません。少子高齢化社会、人口減少社会の下、真に地域住民が豊かに安心して働き、営み、暮らせるような地域経済と地方自治を実現していかねばなりません。
 本年の10月1、2日には本県のつくばで「第13回地方自治研究全国集会」が開催されます。本研究所は全国の仲間と力を合わせ、この重要な大会の成功のために大いに貢献したいと考えています。
 そして、会員・読者の減少、学習交流や調査研究活動における停滞傾向など本研究所の近年の弱点を克服する方向に一歩を踏み出したい、と願っています。
 本年も皆様方の力強いご支援ご協力を心からお願い申し上げます。

 本年もよろしくお願いいたします。

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もの申す2016年

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洪水災害の常総市での住民運動でかちとったもの、とりくみで重視したこと

 稲葉 修敏(吉野サポートセンター 事務局長 )

 今回の豪雨・洪水災害で被災されたみなさんには心からお見舞い申し上げます。昨年9月に発生した台風18号による豪雨・洪水災害でとりわけ大きな被害が発生したのが常総市です。市内のほぼ中央を南北に流れる鬼怒川の堤防決壊や越水、八間堀川の決壊や越水により、市内の3分の1の面積が浸水しました。住宅の被害は1月4日時点で、全壊53、大規模半壊1463、半壊3526、床上浸水171、つまり床上浸水以上は5042件、床下浸水は3056件)という甚大な被害です。主要産業の農業、商工業をはじめ、あらゆる分野が深刻な打撃をうけました。

洪水災害発生以来約4ヶ月間のとりくみで、新たにかちとった被災者支援の制度

従来の枠をこえる新たな被災者支援制度で実現した主なものを順不同で列挙すると、
① 「半壊」世帯に対して、茨城県独自の制度として25万円の支援金を支給し、応急修理の所得制限撤廃で56万7千円まで使えることに。(県の独自制度新設で県と市が5割ずつ折半)
② 農家に対して農業機械や設備の修理や買い替え費用の6割補償(国の支援制度適用で国が3割、県と市が1.5割ずつ)
③ 業者への上限50万円の直接補助。(県の独自制度新設で県と市が5割ずつ。個別の業者への支援制度は全国初、営業再開が条件)
④ 建物の修理、修繕で発生する建築廃材について市の負担で回収する。(12月18日発表。それまでは業者に依頼して有料で処分の方針だった)
⑤ 収穫後のお米の浸水被害(1092㌧)に対しては、来年の米作りの準備にかかる費用を援助するという形で、10aあたり上限7万円を補助する。(今回限りの制度、国5割、県と市が2.5割ずつ。今国会の補正予算で審議中、決まれば今年度中に実施される予定)
⑥ 鬼怒川緊急対策プロジェクト。【ハード対策】総事業費約600億円で、鬼怒川(茨城県区間)の堤防整備(かさ上げ・拡幅)・河道掘削などを今後5年間(~32年度)で行う。八間堀川の堤防整備(かさ上げ・拡幅)・河道掘削などを今後2年間(~29年度)で行う。【ソフト対策】円滑な避難の支援等を行う。

 私は、これほど劇的に住民の要求が実現していくのを目の当たりにするのははじめてのことです。これらは、被害の甚大さ深刻さを背景に、被災住民自らが声を上げ、運動し、交渉もして実現をかちとってきた重要な成果です。しかし一方、これらの一つひとつは、支援の額や規模が小さすぎて、生活再建や生業再建を支えるにはほど遠い。決まるのが遅かったのに、すでに自己資金で対処した分については支援対象にならない。より深刻で廃業せざるをえない人は支援しない。などの問題点が多々あって、更に改善・充実を求めていく必要があります。

とりくみのなかで大事だったと思うこと

 一つは、被害の深刻な実態、被災者の切実な要望をリアルにつかんで、国・県・市に繰り返し要望してきたことです。発災直後から日本共産党の国会議員(候補者)・県会議員・市議会議員が被災現場を視察し、避難所を回って被災者を見舞い激励し、県や市の災害対策本部との懇談・申し入れ、国・県・市への数度にわたる要請行動を繰り返しました。農民連、民商、新婦人等の団体も独自の要請行動を行いました。
 現地にボランティア活動の拠点となる「吉野サポートセンター」を地元市民有志、県内の民商・農民連・新婦人・茨城労連・日本共産党などが協力して設立したことは大事でした。のべ1,500人のボランテイアの力を借りて、ボランテイア活動や支援米を配りながら要望をききとるなかで、リアルな被害の実情と被災者の声をつかんでいきました。そして、日本共産党や民主団体が行う交渉には、被災者も加わり、切実な要望をリアルに訴えました。

 二つめは、切迫した願いを実現するためには、従来の制度の壁を突破しなければならない。だからこそ党派を超えて「オール常総」でとりくむことを重視しました。
 市議会で「床上浸水はすべて『大規模半壊』に」(「半壊」では生活再建支援金がでない)との決議をあげたり、多数の市議会議員らで県知事に面会して要望したりしました。11月16日に臨時県議会が開かれるのに先立って、11月3日に開いた緊急被災者集会(130人参加)の成功のために、2日間で主だった区長を訪問し、集会の主旨を伝え、賛同をえて、集会の案内チラシに区長さんたちの名前も載せて配布しました。それを自ら配ってくれる区長も少なくありませんでした。各党に参加を要請し、市長と8人の市議会議員、日本共産党から2人の県議と梅村衆議院議員が参加し、マスコミも注目して報道しました。12月20日の常総市水害・被害者発起集会(250人参加)には日本共産党の塩川・梅村両衆院議員と山中県議が参加、永岡衆議院議員(自民)と飯田県議(自民ク)からメッセージが寄せられ、神達県議(自民)は開会前にあいさつ、高杉常総市長に加え吉原坂東市長も参加し注目され、各紙が報じました。

 三つめに、被害者自身が立ち上がり、河川を管理する国や県の責任を問いながら、自らの怒りや思いを発信し、道理をもって「補償・賠償せよ」と訴えてきたことが、大きな力になった。
 被災者が集会の場で公に発言する機会を持ち、鬼怒川の堤防整備率が上流の栃木県が6割台なのに下流の茨城県が17%だったこととか、越水した若宮戸地先では、自然堤防をソーラー業者が掘削したのを住民や市が危険だと指摘していたにもかかわらず、国交省は有効な手立てを打たなかったことなどが共有され、マスコミも注目して積極的に報道したので、社会的にアピールできて世論にも影響を与えました。堤防の管理責任を問う被害者の声と運動は、政府にとっては一番突き刺さるものであるし、被災者からも集会のなかの発言で「こういう機会をつくってくれてありがとう」と感謝されました。
 寒い冬を迎え、被災者支援のとりくみはまだまだこれからです。ボランティア活動を継続しながら、堤防決壊や越水の原因究明、国の被災者支援制度の抜本的拡充のためにとりくみを強化していくことが必要です。

吉野サポートセンター

 台風第18号に伴う豪雨及び鬼怒川決壊による水害の被害に遭われた常総市の方々を支援するために、茨城県内の団体が共同で立ち上げた自主的なサポートセンターです。
 所在地:茨城県常総市上蛇町1863(吉野公園)(2016年3月末日まで)

連絡先:080-6567-1527    

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寄 稿

原子力安全協定改定のあるべき姿

国民的合意・県民的合意をつくりだすために!

本田 忠弘(茨城県自治体問題研究所 顧問)

Ⅰ 私の「原子力安全協定」改定案

 いきなりですが改定案を示します。文字が改定する部分です。あくまでも改定は、私の意見です。

(前文)
  茨城県(以下「甲」という。)「所在市町村」並びに「隣接市町村」(以下「乙」という。)と「原子力事業者」(以下「丁」という。)・・・・・、次のとおり協定する。(注、乙は14市町村となる。)
(安全確保の責務)
第1条3 甲及び乙は、原子力施設周辺の安全を確保する責務を果たすために、丁の協力のもとに、実行性のある避難計画及び訓練計画を整備しなければならない。  
(新増設等に対する事前協議)
第5条 丁は、原子力施設・・・・を新設し、増設し、変更し、新規制基準審査請求及び再稼働し、又はこ れらに係わる用地・・・・は、事前に甲及び乙と協議を行うものとする。
 協議は、相当の期間(30日)を定めて計画書を送付して行うものとする。
(稼働及び再稼働に対する合意)
第5条の2 丁は、原子力施設を稼働及び再稼働するときは甲及び乙の合意を得るものとする。
(廃止措置計画)
第5条の3 丁は、・・・・この限りでない。
 2 丁は、・・・・報告するものとする。

〈改定案の説明〉

1.「隣接市町村」を加え、30km圏に関係する14市町村を乙とする。
2.「原子力施設周辺の安全確保」の県対策として避難計画を加える。丁の協力を強調
3.第5条1項に「事前協議」を加える。原災特措置法第7条2項の協議参考。
4.第5条の2に「合意権」を明記した。憲法の水準に引き上げる。  
 
Ⅱ 福島の事故によって安全神話の夢が破れた。それから東海第二原発の新規制基準審査請求書堤出までの経過を概括してみよう。

1 2011年3月11日 福島第一原発(4基)が事故を起こした。
 事故の概要(2015年10月時点);
 避難民は、16万4000人(福島県全体)避難指示区域から避難者8万人、被災面積1000平方キロメートルでそのうち400キロ平方メートルは帰還困難地域(2.4万人)となっている。原発関連死亡者1930名。そのうち、60名は避難中の死亡者である。さらに、甲状腺ガンの疑いのある児童は153人(37万人対象)に及ぶ。
 さらに放射能汚線の原子力災害は「ふるさと」と避難民の普通の生活(人格権)を破壊し将来の人生を狂わしてしまっている。2016年1月には双葉町、大熊町、浪江町、富岡町の4町の人口が0(ゼロ)になっている。
 そして事故発生から2015年2月までの4年間の住民賠償額総体は7兆円に達している。(東京電力が原子力損害賠償審査会に基づいた見積額)
 これから原発事故は起こるということを国は認めた。国民は、事故を起こす原子力発電所にどう対処するのか。という課題に向き合うことになった(原子力発電所が起こした事故にどう対処するかではな
 い)。 

2 原発ゼロで日本は成り立つ。 
 2013年夏期から2014年冬季まで2か年の事実です。原子力発電所で稼働ゼロが続いたが自然と化石エネルギーで電力は余裕があったということです。この時点で原発は「福祉」をもたらすものではなく、もっぱら「原子力災害」をもたらすものとなった。

3 安倍首相は原発ススメ
 安倍政府は、2013年に「エレルギー基本計画原案」をつくり「原発は基盤となる重要なベースロード電源」と決めました。そして「新規制基準に合格すれば再稼働させる」方針を公表し原発輸出を含めた原発推進政策をすすめている。
 そして最近、「川内原発や高浜原発の稼働を開始している。

4 人格権こそ最高の価値  原発再稼働no!
 福井地裁 2014年5月21日 大飯原発運転射し止め判決。生存を基礎とする人格権(憲法13条、25条)こそがすべての法分野において最高の価値を持つことを示し、事故を起こせば多くの住民の人格権を侵害することになる大飯原発の運転(再稼働)を禁止した。
 
5 茨城ではどうなっている?
 6人首長懇談会の「安定協定」改正要求、正式に議題にならないで覚書で肩透かしをくった。
 東海第二原発の新規制基準審査請求書が2014年5月に国へ提出された。国の原子力規制委員会が審査中である。実験炉常陽も本年度に同じ審査請求を出すとの報道があった。
 2012年7月17日原子力所在地域首長懇談会(東海村長と丙自治体計6首長)が日本原電(KK)あてに「原子力算定協定の改正要求」を提出した。この積極的な姿勢は評価できる。
 「改正要求」の主なものは次のとおり。
(1) 使用済み核燃料貯蔵施設を原子力施設に加える。
(2) 再稼働の可否に係わる協議を加える。
(3) 使用済み燃料の安全対策に係わる協議を加える。
(4) 丙と乙と読み替える。

 2014年5月、東海第二原発・新規制基準審査請求書の提出に際して、東海村長や水戸市長など11の周辺自治体首長は、日本原電(KK)と覚書を取りかわした。覚書には、審査の合格のあと「安全協定見直し」について関係者と調整・協議を行うと書かれている。現在審査中。
 しかし、県知事や14市町村長の意見を反映させる協議や合意するかしないかの場を設けることをしなかったことは問題を残した。

Ⅲ「原子力安定協定」の改定の基本的立場―立憲主義
 上の1~5までの経過を総括すると、二つの事実が確認できる。
 1つは、原発事故の発生。
 2つは、原発ゼロで日本電気社会は安泰、逆説的に言えば原発抜きで「化石エネルギーと自然エネルギー」発電で”日本電気社会”は充分成り立つ、ということが証明された。

 そこで、一つの結論を示すことができる。
 原子力災害は、人格権(憲法第13条、25条)を侵害する。従って、原発の再稼働は差止める。

 私は、原子力災害は、次の憲法の6項目を侵害するものと考える。加えて、「原子力安全協定」は「事前了解の立場から憲法の立場に立つことが求められていると思います。
 具体的に基本的人権5項を基準にすることになります。
  1 12条 基本的人権の保持努力義務。
  2 13条 生命、自由及び幸福追求権。
  3 22条 居住、移転及び転職選択の自由。
  4 25条 生存権
  5 26条 教育を受ける権利、教育を与える義務。
  6 29条 財産権
  7 92条~94条 地方自治権。

Ⅳ 最後に
 茨城県「原子力安全協定」は乙と丙で14市町村、そして18事業所が関係している。避難計画は、東海第二原発の14市町だけでよいのか。そうではない。福島の原発事故以後の新しい情勢に対応した協定に変えなければならない。その努力が求められている。
 原子力安定協定の改定が情勢の変化に対応し、有効性を確実なものとするためには、我々が生きる茨城の地方自治の確立が重要である。 知事や関係自治体の首長、各議会が日本国憲法と地方自治擁護の立場にたつとともに、主権者である県民の声と運動が決定的な役割を果たすでしょう。
 国民的合意、県民的合意をつくり出すために県民の方々が多いに発信し行動することを呼びかけます。

* 『原発再稼働?どうする 放射性廃棄物―新規制基準の検証―』(京都自治体問題研究所発行)を是非参照してください。

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イベント

第40回 自治体政策セミナーin 京都
「選択と集中」で地域の未来はあるかー
地方創生に対抗する地域自治・住民自治のあり方を考える
2016年 2月20日(土)~21日(日) 
京都JA会館(5階501会議室)
京都市南区東九条西山王1番地(京都駅八条口より徒歩約5分)

参加費 自治体問題研究所個人会員10.000円 
    一般参加12,000円 (1日のみは7,000円)

2月20日(土)13:00~17:00「地方創生」政策の本質と地域再生の方向-「選択と集中」と自治体・地域の未来
講師:岡田知弘氏(京都大学大学院教授/自治体問題研究所理事長)

2月21日(日) 9:30~15:30 「地方創生」とコンパクトシテイ
講師:中山徹氏(奈良女子大学大学院教授/自治体問題研究所副理事長)
緊急特別講演会 
2月20日 10:30~12:00 TPPと地域経済・自治体一中小企業振興基本条例の重要性
講師:岡田知弘氏

主催・問い合わせ先:〒162-8512 東京都新宿区矢来町123矢来ピル4階 TEL 03-3235-5941 FAX

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