第49号
(第49号) (2013・01・21発行)
新年のごあいさつ
茨城県自治体問題研究所理事長 田中 重博
新年あけましておめでとうございます。
昨年暮れの総選挙では自民党が圧勝し、第2次安倍政権が発足しましたが、これは、自民党が国民の信任を得たというよりは、3年半の民主党政治に国民が強い失望を抱き、それに「NO」を突きつけた結果といえます。同時に自民党が約4割の得票で約8割の議席を得る小選挙区制の民意をゆがめる弊害が露呈されました。
東日本大震災と福島原発事故から1年10ヶ月がたちましたが、いまだ30万人を超える被災者が避難を続けています。
安倍政権は、経済の再生を当面の緊急課題とし、「金融緩和」「大型公共事業」「成長戦略」の「3本の矢」で、デフレ不況を打開すると主張しています。しかし、これらはいずれも過去の自民党の破綻した旧い政策を並べているに過ぎません。特に公共事業によるばら撒き政策は、ゼネコンをはじめ一部巨大企業などを潤すかもしれませんが、真の経済成長につながらず、借金を膨張させるに終わる危険性が強いものです。デフレ不況を真に打開するには、消費税増税を中止し、大企業の進めるリストラや賃下げをやめさせ、非正規労働者を正規労働者に引き上げるなど(大企業が保有する260兆円もの膨大な内部留保の一部を拠出するだけでそれらは可能です)、労働者の収入と雇用を増加・拡大することが必要です。
また安倍政権は、国民多数の世論に背を向け、民主党の脱原発政策の見直しを公言し、原発の本格的再稼動推進の姿勢を示すとともに、TTP参加、道州制導入と憲法改定への意欲をあらわに示しています。しかしながら、昨年、原発ゼロ、反TTPを掲げる国民運動はかってない規模に達しており、容易には後戻しできない状況を作りつつあります。
日本維新の会に代表される「第3極」も改憲と道州制導入では、自民党と同様の政策を掲げており、自民党と共同歩調をとることが予想されます。
道州制については、新政権は「道州制基本法」の早期成立を図り、その制定後5年以内に導入を目指す方針を示しています。しかし、現在の府県を単純に合併、広域化しても逆に「州都」に人口や企業が一極集中してしまい、さらにその州都が権限や財源を独占し、それ以外の県はますます過疎化が進み、地域格差が促進される危惧がぬぐえません。地方にとっては、分権ではなく、むしろ集権化となる危険性が大です。また、道州制が実施されたら従来国が行っていた生存権や教育権など国民の基本的人権を保障するナショナルミニマム(国家的最低行政水準)を国は放棄し、自治体に押し付けられた福祉などのサービスが切り捨てられていく可能性もあります。さらに、道州制は、大企業や多国籍企業にとって恩恵の多い広域的な地域開発を積極的に展開することになるでしょう。誰のための何のための道州制か、ということについて十分議論と研究を尽くし、国民の前に明らかにされることが肝要です。
また、自民党や維新の会は、福祉国家を否定する新自由主義の下に、憲法に保障された社会保障の権利を否定し、生活保護を攻撃し「自助・自立」論を煽るなど、保健・医療・介護・保育・福祉などの自治体の住民サービスの水準を圧縮・低下させようとしています。
このような現在の情勢をふまえ、当研究所は、住民の暮らしと地方自治を守り、被災地の復興と地域経済の再生に寄与することをめざし、学習交流活動、調査研究活動、そして会員や読者の輪の拡大に決意を新たに取り組んでまいる所存です。
本年は、ぜひ明るい希望ある年にしたいものです。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
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資料
法律による委譲、条例による委譲ー第2次一括法成立に思う
辻山 幸宣(つじやま たかのぶ 公益財団法人地方自治総合研究所所長)
菅直人首相が正式に退陣表明をした2011年8月26日、「地域主権」関連の第2次一括法が可決成立した。この法律に先立つ「地域主権改革推進一括法」が、地方自治法改正案および国と地方の協議の場に関する法案とともに「地域主権関連三法」として提出されていた。この一括法は、野党の「地域主権」という用語への反発をうけ法文から「地域主権」の語を外すとともに法律名称も「地域の自主的及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」と修正された(この法律は他の二法とともに2011年4月28日に可決されている)。今回成立した法律は先に修正可決された「地域の自主性及び自立性を高めるための……」と同名の法律であるため、便宜上、先の法律を「第1次一括法」、今回成立した法律を「第2次一括法」と呼ぶことにしている。
さて、第1次一括法は地方分権改革推進委員会(2007~2010年)の勧告を受けて、自治事務に対する義務付け・枠付けを見直し、自治体の条例で規定できるようにすることを目的にしたものであった。今回の第2次一括法はこの義務付け・枠付けの更なる見直しとともに、都道府県から市町村への権限移譲を実現しようとするものである。農地等の権利移動の許可(市町村へ)、ガス用品販売事業者への立ち入り検査(市へ)、NPO法人の設立認証等(政令指定都市へ)など41法律について基礎的自治体に移譲される。この権限移譲によって市町村の活動範囲が広がり、自らの判断で地域のよりよき環境を創造する可能性を高めることが期待される一方、少しばかり気になることがある。
この権限移譲は都道府県の権限とされているものを、法律によって市町村に移譲するものである。移譲というより権限の所在変更を行うといった方がわかりやすい。従って、「移譲」された市町村にとっては新たな事務の義務付けとなる。2000年の第1次分権改革では、権限移譲は扱わず、現に処理している事務の執行の自主性を高めることを主眼とした。機関委任事務を廃止し、指揮監督や通達による縛りから解放して、統制された自治行政から住民の意思に基づく自治体運営へと大きく舵をきったのであった。権限移譲はごく一部が実施されたのみだが、それよりも特筆すべきなのは、都道府県から市町村へ権限移譲したほうがよい事務があれば、それぞれの都道府県と市町村との間で話し合って自主的に市町村へ移譲すればよいという制度を打ち立てたことである。事務処理特例制度(地方自治法252条の17の2~4)である。まさに、全国画一にではなく、それぞれの地域の実情に見合った権限の配分を、協議をへて条例で実施するのである。県内すべての市町村に移譲するもの、町村は無理だとして市だけに移譲するもの、条件が整った一部の市町村には移譲し、そうでないところについては県行政として実施するなど、極めて実情にあった運用が可能な制度である。これに対して今回の第2次一括法は、こうした制度がありながら国の法律によって否応なく移されるということになる。
この改正も地方分権改革推進委員会の勧告に沿ったものだ。同委員会の「中間的なとりまとめ」(2007年11月)には、条例による事務処理特例制度との関係が次のように述べられている。「条例による事務処理の特例制度は各都道府県において積極的に活用されている」。「この制度により、複数の都道府県において、小規模な市町村も含め移譲がなされている事務は、(中略)いずれの地域にとっても、本来市町村の事務として位置づけられるべきものと考えられ、基礎自治体優先の原則にもとづき、市町村の事務として法令上制度化することを検討する必要がある」。
「ほとんどの市町村に移譲されているから、すべての市町村の事務に」という理屈は、少なくとも自主性・多様性を重視する分権の思想とは相容れないものがある。そもそも、一律に法令で義務付けすることの問題性に切り込んだのが義務付け・枠付けの見直しではなかったのか。条例による事務処理特例では移譲を望まなかった市町村に対しても、この法律は否応なく事務を押しつけることになる。地方分権改革が打ち立てた自主的、話し合いによる権限移譲の原則と大きく背馳することは疑いない。
このような措置は市町村優先の原則とも、補完性の原理ともいわない。もし「優先」といい「補完」というのなら、その事務を自ら行うかどうかの判断を市町村に留保することが欠かせない。その上で、せめて移譲を望まない市町村から都道府県への事務返上手続きを整備することが必要である。事務処理特例条例にその手続きを加える試みは無謀であろうか。
*「地域の自主的及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」(第一次~第三次一括法)に基づき、とくに全国の市町村で既定の基準変更条例の改定作業がすすんでいる。改定結果の評価や分析は今後の論稿に期待するとして、今回は、やや古いが、上の一括法をどのように捉えるかについて指摘された数少ない論稿から参考となるものを紹介する。
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イベント
第12回茨城自治体セミナー
『地域医療の再生と中核病院』
と き:2月2日(土)13:00開会
ところ:「筑西市立中央図書館」視聴覚室
筑西市岡崎1丁目11番地1 0296-24-3530
主催 : 茨城県自治体問題研究所・茨城県自治体労働組合連合・筑西市職員組合
後援 : 筑西市
講 演:八田 英之氏(千葉県自治体問題研究所副理事長)
「地域医療の問題点と将来方向」
- 地域からの報告と交流:16:00まで
1 筑西・下妻医療圏の医療供給体制の現状
筑西地域共同運動連絡会会長 白石勝巳氏
2 茨城県の医療水準と地域医療充実の課題
茨城県民医連事務局長 中山弘子氏
3 筑西市民病院の現状と新中核病院建設計画の経過
筑西市職員組合筑西市民病院支部長 鈴木千功氏
筑西・下妻保健医療圏における医師不足解消を図り、特に救急と出産に対応する地域医療を充実させることは、大きな課題となっています。しかし、筑西市民病院と県西総合病院の再編統合による中核病院建設が頓挫し、公設民営の動きが強まっています。
このセミナーでは、圏域の地域医療再生を住民本位の立場で実現できないか、問題点と課題を明らかにし、将来展望を探ります。
医療政策の第一人者である八田先生のお話を伺うとともに、地域からの報告を受け交流をします。
自治体職員のみなさん、議員のみなさん、住民のみなさん、どなたでも参加できます。参加費:無 料。
※お車でお越しの方は市役所の駐車場をご利用ください。
「東海村から日本の未来を考える」
Big対談
村上達也村長 と 小森陽一さん(東大教授・九条の会事務局長)
2013年3月30日(土)14:00~16:30
東海文化センター(JR常磐線東海駅下車、徒歩15分)
入場料 500円
主催: 3.30Big対談実行委員会 代表 田村 武夫
呼びかけ人:加倉井豊邦(JA茨城中央会会長)齋藤浩(茨城県医師会長)佐藤洋一(茨城県生協連合会会長) 長田満江(茨城県母親大会連絡会会長)相沢一正(東海村議)村上孝(東海村議)大名美恵子(東海村議)
新刊紹介
''『子ども・子育て支援の新制度』
中山徹・杉山隆一・保育行財政研究会編著
自治体研究社1429円+税
主な内容
2012年8月に「子ども・子育て支援関連法」が、公的保育制度を大きく後退させると保育関係者の多くの反対や懸念する声に背を向け、民自公3党合意をふまえ、国会で可決されてしまいました。
本書は、中山 徹、杉山隆一・保育行財政研究会が編著にあたり、2015年4月支援法の本格実施にむけて準備が進められようとしている中で、子育て支援法の撤回を求めながら、どのような取り組みが必要かを問題提起している。
【もくじ】
はじめに 第1章 子ども・子育て「新制度」の概要 第2章 子育て支援法の本質と問題点 第3章 公務としての保育-公設公営の施設と事業の役割 第4章 「新制度」のもとで議論すべき点 第5章 本格実施までに市町村、保育所、保護者会が検討するべきこと おわりに
橋下維新が地域の福祉・医療をこわす
大阪市政改革プランによって進む地域福祉・地域医療の解体・再編は「大阪都構想」推進への地ならし
• 中山徹・宮下砂生(編)
• 自治体研究社1,260円(税込)