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第44号

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(第44号) (2012・08・20発行)

帆曳き船

霞ヶ浦の帆曳き船(土浦市)

日本で第二位の大きさを誇る霞ヶ浦は、帆引き船という伝統文化が今もなお残されています。帆引き船は明治13年にシラウオ漁を目的に考案されました。その後はワカサギ漁にも使われ、昭和42年にトロール船に取ってかわるまでの間、霞ヶ浦漁業を支え続けました。帆引き船は凧の原理を応用したもので、巨大な帆を張り風の力を受けて、船を横流しすることで水中の網を引き漁法です。

閉塞感光っているのは女だけ
国民に背を向け尻向け牙を向け  
黒い雨焦土を濡らし血の涙
熱闘の聖火が消えて夜静か

泉  明 羅

(泉明羅・本名 福田正雄 水戸市在住、句歴 十二年、所属 元吉田川柳の会)

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大阪都構想、どれだけ「住民本位」になるか?

 「大阪維新の会」(代表橋下徹)が掲げる大阪都を実現するための大都市構想法案が8月7日、衆院総務委員会で日本共産党、社民党をのぞく賛成多数で可決された。今国会で成立する見通しだ。法案は、政令指定市とその周辺をあわせた人口が200万人以上の区域を対象に、市町村を廃止して特別区を置くことを認めるもの。大阪だけに適用されるものではないため、大阪府を「都」とする条項はなく、府の名称は変わらない。また、特別区がどんな行政サービスを担うのかといった中身については触れていない。制度の特徴について、総務省の久元喜造自治行政局長は「市町村が処理する事務のうち必要と認める事務を都が一体的に処理。その事務を行う財源について都が財政調整を行う」と説明した。

 結局、同法案は、事務権限と財源を大阪府など広域自治体に集中できる仕組みである。採決に先立つ反対討論で、共産党の塩川鉄也議員は、「関西大資本がすすめる巨大開発事業のために府に集中した権限と財源を活用していくことが大阪都構想の核心だ」と批判した。そのうえで塩川氏は、「特別区の税収や地方交付税が府に吸い上げられれば、特別区の財政は悪化し、住民の福祉や暮らしは大きく後退する」と述べた。さらに、東京都の特別区の歩みを見たら、「東京23区を基礎自治体として認め、その機能を拡充する方向を築いている」と指摘。対して大阪都構想は地方分権の流れに逆行していると強調した。さて、どうなるか?
  

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資料

大阪都 構想  -メリット,デメリット,論点を考える-

ここに紹介する資料は、 村上弘立命館大学教授が『立命館法学』2011 年1 号(335号)に収載した標記タイトルの論文から結論的記述にしぼって紹介したものである。240頁に及ぶメリット、デメリットの実証分析を基礎にしているので詳細な説明は論文を参照されたい。

1.大阪都構想を推進する知事や大阪維新の会の宣伝活動は巧みである。推進主体の利益(知事への権力集中,府=都が大阪市の主要土地・資産等を無償取得するなど)も含めて追求し,かつ公共の利益(大阪の経済的再生,二重行政の廃止,特別区への分権化)をアピールして支持と得票を最大化しようとする。政治家の戦略としては,理想的だと言える。そうした半面で,統計の恣意的な利用や,大阪都構想の追求する目的は現行の大阪府と大阪市の協力・妥協で進められないとの単純な断定と論理の飛躍を含んでいる。また,海外でも人口200万人程度の有力な大都市自治体が多いという国際比較や,大阪都のもたらす深刻なマイナス面,大都市自治体としての大阪市・堺市の存在意義や政策貢献など,不利な重要事項にはほとんど触れない。これはポピュリズム(大衆扇動・迎合政治)に特有の単純化して感情に訴える宣伝方法で,説明責任が果たされていないように思われる。新聞の世論調査でも,「説明不足」と言う回答が半数を超える。驚くべきことに,「指定都市である大阪市や堺市を廃止する」という構想の核心部分さえ,曖昧なままである。これに無批判的にとびついているマスコミ(特に東京のマスコミ)が,大阪都構想を,誤解を含む形で美化して報道する例がみられるほどだ。
 
2.私の研究の結論は,以下でも述べるように,「大阪都は,必要性が小さくデメリットの大きい,集権化である」,あるいは「大阪都は,効率の面ではプラスとマイナスがあり,大阪の民主主義と政策能力に対してはマイナスが大きい」というものです。
 大阪都によってしか達成できない目標というのは,結局,知事への権力一元化,大阪・堺市が反対する政策の強行,大阪・堺市の土地や資産の吸い上げくらいでしょう。さらに関連情報として,地方自治法の考え方,海外の地方制度,府と大阪市のこれまでの政策などについても,十分に知っておく必要があります。大阪都構想は日本の地方自治法や指定都市(政令市,政令指定都市とも言う)の考え方には適合していませんし,先進国にも東京以外には類例がないので,「危険な賭け」であるおそれが強いことを念頭に置きつつ,検討を始めるべきでしょう。大阪市が失敗はあっても再開発や景観,緑化,人口回復など大阪の整備に成果を収めてきたこと,あるいは,かつて大阪府は、関西新空港の建設に立派な責任を果たし,「大阪市を廃止し大阪都に一元化しなければ新空港は作れない」とは言わなかったことなど,歴史的事実も押さえておきたいものです。

3.橋下知事は,大阪都は住民に近い特別区への分権だと主張しますが,府への集権化だという批判もあります。「大阪都」構想は,府と大阪市・堺市との関係において,次の4種類の変化をもたらします。
 ① 大阪市,堺市がもつ指定都市としての高次の権限(と一般市の権限)のうち重要なものを,都=府が吸収する。
 ② 大阪市,堺市を廃止し,いくつかの特別区または市に分割(解体)する。
 ③ 大阪市,堺市が蓄積してきた資産(地下鉄,博物館,大学,市の施設など)や税源の重要部分を,都=府が無償で取得する。
 ④ 上の①と③のあとに残った大阪市,堺市の権限,資産,税源を,特別区に移す。
 これらのうち①~③は大阪市,堺市から都(つまり府)への集権化といわざるをえません。大阪市,堺市全体の地域主権を否定し,地方分権の流れ,大都市自治(政令指定都市制度)に逆行するのが,大阪都構想の核心です。たしかに,④の特別区への分権と住民参加という効果も存在します。しかし,そもそも特別区の権限・財源が現在の指定都市よりかなり小さいのですから,住民が意見を言える政策が限られます。大阪と堺の市民はその小さなメリットと引き換えに,大阪市,堺市という政策機構とそこへの市民参加が消滅するデメリットをこうむることになります。
 大阪都構想は,現在の区長を「役人」だと批判しますが,巨大な大阪都の知事が都全体と大阪市,堺市の問題を十分に把握することは難しく,もし大阪市域,堺市域担当の担当者を置くとすれば,(それが副知事なら議会での承認を経るとはいえ,)「役人」に近くなるでしょう。大阪都のもとでは,大阪,堺という都市は,住民の信任を得ていない役人によって統治されるわけです。具体的には,大阪市,堺市の住民は,今なら,各都市の重要政策を選挙で争うことができます。しかし,大阪都のもとでは,都が各都市で行う重要政策(特別区が担当できないレベルのもの)に不満があっても,都のリーダー(知事)や議会を選挙等で簡単には変えられなくなります。

4.ポピュリスト政治家は,議会制民主主義に好意的ではない。河村名古屋市長は市議会を主要な「敵」として攻撃してきた。橋下大阪府知事は,「国会議員から一国のリーダーを選ぶ権限,人事権を国民の下に取り戻す運動が我が国に最も必要な政治運動だ」と述べている(毎日新聞2011年5月10日)。この論理は,民主主義の意味を有権者が「優れた」リーダー1人を選ぶことに単純化し,民主主義の名のもとにリーダーへの権力集中を図っているとも言える。この論理は,現行制度のもとで,有権者が一定数の有能な議員と政治的立場や政策の集合体としての政党を選び,多数派の党が議論により首相を選ぶが,議会選挙で大敗したり世論の支持が極度に下がれば首相は任期途中でも交替するという,慎重かつダイナミックな過程を視野に入れない。地方自治体のポピュリズム首長のおかげで認識しやすくなったことだが,今日の日本では,政治リーダーを直接選挙制度にすると,人気投票になったり,選ばれたリーダーが独善的になっても批判しにくい,議会と衝突したり議会がリーダーを統制できないといった結果がしばしば起こっている。自治体ではともかく,それがもし国のレベルで起これば,深刻な混乱と被害を生み出すだろう。リーダーシップと多元的な議論は民主主義にとってともに大切で,2つのバランスが肝要だ。
 ポピュリズムを擁護しようとするなら,「ポピュリズムは自己制御能力を持つか」「バランスに配慮する合理的なポピュリズムは成立しうるか」という問いに対して,肯定的な答えができなければならない。

(「いばらきの地域と自治」編集委員会)

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これでわかる産業連関分析、産業連関分析の準備、用語の解説、産業連関分析の実際、市町村産業連関表の作成方法
第2部 実践・産業連関分析
2-1 照葉樹林と産業観光によるまちづくり一宮崎県綾町
2-2 産業の川上・川中・川下が循環する林業立村ー宮崎県諸塚村
2-3 自然エネルギーによるまちづくり一高知県橋原町
2-4 中小企業振興基本条例と帯広・十勝の地域経済一北海道帯広市
第3部 地域づくりと産業連関分析
地域の現状と地域づくりの課題、地域の政治経済制度と3層の地域循環構造の把握、
産業連関表を活用した地域経済循環の計量的把握、地域づくりのマネジメント政策

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