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第162号

第162号

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第162号

2022・06・25更新

八坂公園蓮 (2)
八坂公園はすのはな





八坂公園= 坂東市岩井

八坂公園  2,000年以上前の古代ハスの実から育ったハスで、見頃になると一面に広がる大賀蓮を楽しむことができる。日中には花弁を閉じてしまう。花の命は4日と儚く、最も美しく香りの良い状態は2日目といわれる。 




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 寄 稿 

注目を集める自伐(型)林業

興梠 克久(筑波大学准教授 生命環境系) 

                   

1 自伐(型)林業とは何か

 保有山林において自家労働中心で素材生産(立木を伐採・搬出して丸太として販売すること)を行う世帯を自伐林家という(自伐林業)。自伐林家の中には、保有山林だけでなく、他人の保有山林においても自家労働中心で素材生産を行う者もいる。一方、山林を保有しない、保有していても管理をほとんどしてこなかった地域の住民や都市部からの移住者が、自治体や集落が有する山林や私有林を預かったり作業を請け負って、家族や仲間とともに多様な兼業との組み合わせにより自営林業に取り組む就業形態のことを自伐型林業という。
 自伐林業と自伐型林業の共通点として、小規模分散型長伐期施業、壊れない作業道、多業的暮らしの3つが挙げられる(1)。
 小規模分散型長伐期施業とは、大規模林業事業体によって行われてきた大面積一斉短伐期皆伐に対して、利用間伐(切り倒した木材を販売する間伐のこと)を繰り返し行う長伐期の施業形態で、施業地は概して小規模であり分散している。壊れない作業道とは、豪雨による土砂災害にも強い高密度路網作設技術を指す。多業的暮らしとは、1世帯で複数の仕事・業種に従事することで収入源を複数確保し、トータルとして収入の安定を目指す暮らしの形態である。自伐林家は以前から農林複合経営を行ってきたし、自伐型林業の取り組みのほとんどはいわゆる半林半X(林業以外の兼業収入と林業収入を合わせて生計維持が可能な収入を確保するライフスタイルのこと)である。

2 自伐(型)林業の歴史

 戦後、自伐林家を含む家族経営的な中小林家が注目された時期は3回来た(2)。
 第1の波は1950年代後半~70年代初頭で、拡大造林(広葉樹などの天然林を伐採した跡地や原野などを針葉樹中心の人工林に転換すること)の担い手として農民的林業が高く評価され、期待された。彼らは農林複合経営を確立させて育林作業を自家労働で担っていた。また、政策的にも彼らは雇用林業労働者の供給源としても期待され、次・三男だけでなく、世帯主・長男も農閑期には雇用林業労働者として働き、農林複合経営に賃労働を結合させた経営を展開させていた。
第2の波は1980年代~90年代前半で、主に林内作業車(丸太1tほどを積載できる小型運搬車)を使った自伐による間伐が広く見られるようになった。戦後造林木が成長し間伐期を迎える中で、国の補助事業(林業構造改善事業)を通じて、森林組合に直径14cm以下の小径間伐材を加工する工場を作らせ、流域あるいは市町村単位に産地形成を図った。そのような販売面の環境整備があって、自伐林家の活動が活発化するようになった。
第3の波は2000年代以降で、2つの大きな流れがある。1つは、自伐林家が個別経営の発展の基盤とするためにグループ活動(機械の共同利用や森林認証の共同取得など)を活発に行ったり、集落営農ならぬ集落営林が登場したことである。もう1つは、定年帰農や都市部からの移住者、地元住民のボランティア活動など新たな主体が、自治体・集落や地域住民の保有する山林を預かったり新たに購入するなどして活動フィールドを確保し、間伐材の伐出等の保育作業を自分たちで行う動きが盛んになったことである。
後者の取り組みは自伐林業と区別して自伐型林業と呼ばれており、近年の田園回帰の高まりを背景に全国的に注目を集めている。茨城県内でも、常陸大宮市内の木の駅プロジェクト美和(2012年)や常陸太田市内のまどか折橋(2020年)などが自伐型林業を実践している。また、自伐型林業を全国に普及する運動も盛んで、例えば、NPO法人土佐の森・救援隊(2003年設立)やそれを全国的に展開させるために定式化された木の駅プロジェクト(2009年以降)、NPO法人自伐型林業推進協会(2014年)、先祖の山守り隊(2014年)などが挙げられる。自伐型林業は、自伐協の運動によって全国に普及しつつあり、現在、全国54の自治体、35の地域組織において自伐型林業の取り組みが展開され、企業との連携により自伐型林業の取り組みも33の事例が確認されている。

3 自伐(型)林業の存在形態
 
 土佐の森・救援隊の中嶋健造氏は、広義の自伐林業を3つの形態に分類した(3)。
 1つめは個人型で、100ha規模の専業的自伐林家もいれば、山林保有にかかわらず農業・賃労働との複合経営を営む副業型自伐林家、地元住民によるボランティア型、都市からの移住者による新規参入型など実に多彩である。
 2つめは集落営林型で、共有林を地域住民が自らの共同作業による管理するタイプ(例えば、鳥取県智頭町の芦津財産区)、リーダー的存在の自伐林家が地域の私有林の管理を一括して受託するタイプ(例えば、静岡県の鈴木林業や文沢蒼林舎)、森林施業の集約化の過程において合意形成機能のみを集落が担うタイプ(例えば、福井県のコミュニティ林業)が挙げられる。
 3つめは大規模山林分散型で、広大な所有林に家族経営規模の自伐型林業がやれる範囲の団地をいくつも設定して、そこに山守(代々山守を営んできた山村住民だけでなく、都会から移住して山守に新規参入してくる者も含む)を配置するというものである。奈良・吉野の山守制度がこれに近い。

4 自伐(型)林業を林業の担い手として捉える視点

 先述したように、自伐(型)林業の歴史をたどると、それを林業の担い手として捉える視点も多様化してきたことが分かる。
 はじめは、拡大造林(土地生産性の向上)や機械化(労働生産性の向上)といった生産力問題や、農林複合経営の確立や後継者の確保といった経営の持続性を中心に議論されてきた。近年ではそれらに加え、山村定住社会の主要な構成員として地域活性化の担い手でもあるという視点、小規模分散型施業であることから環境配慮型的だとする視点、私的土地所有の枠を超えた林業活動(ここでは保有山林の管理だけにとどまらず、他人からの作業受託を行っていることを指す。)を展開しているという視点など、いわば社会性の視点も新たに加わった。
 また、自伐(型)林業を担う主体は様々な世代から成り立ち、林業担い手像も世代間で異なる。50~60歳代の現役世代(佐藤宣子が言う「自伐第2世代」(4))は、山林に経済的価値を追求しがちであるが、一方で、彼らが率先して集落内外で地域振興に係る諸活動に従事し、集落内外のネットワーク構築、情報発信という社会的役割を果たしていること注目する必要がある。
 また、田園回帰の動きの中で都会から山村に移住して自伐型林業に取り組む若者や、地元住民の若者で父母または祖父母から自伐林業を継承する者(「自伐第3世代」)が自伐(型)林業を柱にした山村での多業的暮らしを実践し、新しい働き方、新しい幸せの形を模索する姿が注目を浴びている。
 一方、定年帰農層を除く高齢世代タイプの自伐林家(「自伐第1世代」)は、同居する子や孫が農林業経営を継ぐのであれば問題ないが、後継者が都市部に他出し、定年になるまで帰村することが見込まれない場合は、自営の農林業生産を縮小し、年金主体の家計を農林業収入で補完する形になる。このようなタイプにおいては「自伐第3世代」への期待が大きく、祖父母から孫へ1代飛ばして経営を継承する「孫戻し」も実際にみられ始めている。

【引用文献】
1)高橋渉『自伐型林業への新規参入における成立要件』筑波大学提出修士論文、2022年。
2)佐藤宣子・興梠克久・家中茂編著『林業新時代-「自伐」がひらく農林家の未来』農山漁村文化協会、2014年。
3)中嶋健造編著『New自伐型林業のすすめ』全国林業改良普及協会、2015年。
4)佐藤宣子『地域の未来・自伐林業で定住化を図る-技術、経営、継承、仕事術を学ぶ旅』全国林業改良普及協会、2020年。




イラスト1

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今月の俳句

弔問の靴磨きおり柿若葉
   通院の往きも帰りも麦の秋  
老二人多弁になりぬ更衣
   歳月の濁りかすかに水中花
日毎色濃き下総の大青田
   厨に吊る昭和名残りの蠅たたき


高 島 つよし

本名 高島剛 常総市在住、句歴七十年 元茨城県職員 元小貝保育園長、当研究所顧問


事務局たより

第48回茨城県自治体問題研究所総会

と き : 2022年7月17日(日)午後1時30分から4時
ところ : 茨城自治労連会館(つくば市花畑3-9-10
                電話:029-864-2548)

記念講演 :「脱炭素と自治体の役割」
講 師歌川 学氏(産業技術総合研究所 主任研究員)

 記念講演は、産業技術総合研究所・主任研究員の歌川 学氏が現在焦眉の課題である気候変動対策の脱炭素について公共の役割と課題を中心に話されます。
歌川氏のテーマにかかる専門知見の一端が本誌第159号(http://ibarakijichiken.com/index.php?%E7%AC%AC159%E5%8F%B7)に掲載されています。

なお、当日の議題:「2022年度活動方針」「2021年度活動のまとめ」については、
こちら2022年度活動方針(案)をご覧ください。


今月の 川柳

右寄りの岸の田んぼで鳴く蛙 
   年金減赤紙来たかとショック受け
ウクライナがぶ呑みしたいと欲を出し 
   軍拡のアクセル踏んで出す煙 
高齢化つくってほしい老人庁 
   銃乱射ミサイル乱射世は狂い 
硝煙の臭いでしょうか動く鼻 
   骨太で大臣さんは肥満体 
大學は儲け本位の賭場と化し
   アミノ酸竜宮城の贈り物 

 
 

泉  明 羅

(泉明羅・本名 福田正雄 水戸市在住、句歴 四十二年、所属 元吉田川柳の会)

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新刊紹介

社会保障のあゆみと協同
  
社会保障の枠組、歴史、さらに協同との関係性を紹介

芝田 英昭著 (立教大学コミュニティ福祉学部教授) 

A 5 判・並製カバー・160 頁/定価1870 円(10% 税込)

本著の概要:
 社会保障は、私たちが生きていく上で必ず抱える生活問題を緩和・解決するための公的な制度・政策や協同の取り組みです。その目的は、全ての人の「健康で文化的な生活を保障」するもので、 
健康権・文化権・生活権等の基本的人権を保障する制度だといえます。しかし、基本的人権は、戦争ではしばしば侵害されます。
 平和であることが社会保障の発展にもつながり、また社会保障の発展が平和に貢献できるともいえます。本書では、社会保障の基本的枠組、歴史、さらに生命の尊厳、協同の力・運動・実践と社会保障発展との関係性を学びたいと思います。 (本書「プロローグ」より)

危険!建設残土 - 土砂条例と法規制を求めて
  
熱海土石流事故は、あなたの身近でも起りうる!

畑 明郎著 (滋賀環境問題研究所所長、日本環境学会元会長、元大阪市立大学教授) 

定価1650 円(本体1500 円+税10%)

本著の概要:
 2021 年7 月、熱海土石流事故は建設残土問題をクローズアップした。同じように全国には、持ち込まれ、積み上げられる危険な建設残土が多数存在する。熱海市をはじめ、京都、滋賀、大阪、奈良、愛知、三重の現状を精査して、その危険性を報告する。
 そして、大量の残土を生み出す、北海道・北陸新幹線の延伸工事、リニア中央新幹線工事の問題点を明らかにする。
 こうした現実に対して、土砂条例と実効性のある法規制の必要性を説く。

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どう考える 公共施設の統廃合・再編、民間化
  
―公共施設等総合管理計画と指定管理者制度―

角田英昭 編著 

A5版・32頁  地域研割引単価300円(定価400円)

 現在、公共施設の統廃合・再編が急ピッチで進められています。
 その基軸となるのが公共施設等総合管理計画です。この計画は、これまでのような自治体による個別、施設ごとの統廃合・再編に止まらず、中長期的な視野に立って全面的に見直し、施設の総量削減、経費抑制を国主導で推進していくものです。
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 デジタル改革関連法の成立により、住民の個人情報は“利活用"する方向が示され、個人情報保護条例は国の法律に合わせて「改正」を強いられ、その監督権限も国に一元化される方向へと動きだした。本書では、地方自治の視点から、デジタル改革関連法における個人情報保護法制の内容を検証するとともに、住民の権利と団体自治を守るための自治体の課題や条例の論点を具体的に考える。


福島原発災害10年を経て  
ー 生活・生業の再建、地域社会・地域経済の再生に向けて ー

鈴木 浩著
A5/258頁 定価(価格3200円+税)

東日本大震災・福島第一原子力発電所事故による原発災害から10年が経った。被災者の生活再建と、被災地の地域社会の再生はどこまで進んだのか。災害発生直後から福島県と浪江町、双葉町の復興ビジョンや復興計画の策定、そして仮設住宅の供給についての計画づくりに関わり、「ふくしま復興支援フォーラム」を立ち上げた著者が、被災者、被災地そして自治体のいままでの取組みとこれからの方策を語る。10年は決して区切りではない。再建、再生の実際を問う。

再生可能エネルギーと環境問題

傘木 宏夫著
A5/162頁 定価(価格1600円+税)

 「脱炭素」「脱原発依存」といった社会的要請を背景に、再生可能エネルギーの普及に対する期待が高まり、同エネルギーで発電した電気を電力会社が買い取るFIT(固定価格買取制度)制定後、各地で開発が進んでいる。しかし、開発による山間地の森林伐採、景観破壊など様々な問題が地域社会で噴出。本書では、開発が自然環境との調和を図りつつ、地域社会の利益に繋がるように進めるには、地域の側に主体的な力が育つ必要があることを説く。

子どものための児童相談所
ー 児童虐待と子どもへの政治の無関心を超えてー

浅井 春夫編著
A5/176頁 定価(価格1700円+税)

 2020年、20万5029件(速報値)の「子ども虐待相談」が全国の児童相談所に持ち込まれた。全国の児童相談所は225か所、対応する児童福祉司は4553人。この現実のなかで、子どもに寄り添い、家族に寄り添う児童相談所のいまを伝え、改革の方向を模索する。

子どものための保育制度改革

中山 徹著
A5/108頁 定価(本体価格1200円+税)

                 
 2013年から待機児童解消が政策的に進められ、2015年には子ども・子育て支援新制度が始まり、2019年から教育・保育無償化もスタートした。2010年代の10年間は、保育制度、保育施策それと連動して保育所などが大きく変化した。そして、今、保育所、幼稚園、認定子ども園は岐路に立っている。質を犠牲にした量の拡大、行政責任の後退等、だれのための制度改革だったのか。2025年、保育所利用者は減少に転じる、ここで「子どものため」の保育を真剣に考えなくてはいけない。保育環境の改善に舵を切り本当の少子化対策の必要性を説く

〈コロナ〉と並走する新シリーズ全5巻
コロナがあばく社会保障と生活の実態  
コロナと自治体3

伊藤周平編著(鹿児島大学教授)
瀬戸大作(反貧困ネットワーク事務局長) 楠本美紀(兵庫県明石市議会議員) 著

A5判・並製カバー・124 頁/定価1430 円(10% 税込)

 ココロナで明らかになった社会保障の脆弱さを、医療・介護、雇用政策の観点から検証し、是正策を提示。また、生活困窮と貧困の状況を具体的に示して、支援に奮闘する民間団体の活動を跡づけ公的支援の必要性を訴える。市民生活に即した支援策を展開する兵庫県明石市の取組みも伝える。

【シリーズ既刊】1新型コロナウイルス感染症と自治体の攻防 定価1650 円
5「学び」をとめない自治体の教育行政 定価1430 円
【シリーズ続刊】2感染症に備える医療・公衆衛生 / 4コロナと地域経済 体 
<目次>
第Ⅰ部●コロナがあばいたもの
1  コロナ禍があばく社会保障の脆弱さと政策課題
コロナ禍で明らかになった医療政策の問題点と課題/コロナ禍で明らかになった介護政策の問題点と課題/コロナ禍で明らかになった雇用政策の問題点と課題
第Ⅱ部●コロナに対応するネットワークと自治体
1  「死のうと思ったが死ねなかった。最後だと思いメールした」 
コロナ災害ではなく政治の責任による人災/新型コロナ災害緊急アクション/追い詰められている生活困窮者自立支援の現場/コロナ禍が浮き彫りにした移民外国人の「平等性」からの排除と差別
2  兵庫県明石市の市民生活に即したコロナ対応
保健所がどのような役割を果たしたのか/コロナ対策としての市独自の17 の施策/新型コロナウイルス感染症の患者に対する支援及び差別禁止に関する条例の制定

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