第161号
第161号
第161号
2022・05・25更新
五浦六角堂= 北茨城市大津町五浦
六角堂、明治時代に岡倉天心が思索の場所として自ら設計したもので、茨城大学が管理する 。五浦の六角堂 とも称する。「関東の松島」の異名を持つ 景勝地・五浦海岸の中でも優れた景観を示すところに建つ 。
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現下の「改憲」論議について基本から考えてみよう!
憲法学者・長谷部恭男氏へのインタビュウから一部引用する(朝日新聞の専門誌『Journalism』5月号)。
― 自民党や維新の会は、憲法9条を変えて自衛隊を明記すべきだとする主張や、新型コロナウイルスなどの危機に対応するために緊急事態条項を憲法に新設すべきだといった改憲主張を繰り返していますが。
長谷部 新型コロナウイルスの感染拡大対策のために憲法を改正し、緊急事態条項を設けるべきだという自民や維新の政治家の主張に根拠はありません。あまり深く考えもせずに、憲法に例外状態を作る、つまり国家緊急権を政府に与える緊急事態条項を憲法に書き込もうとするのはとても危険。ナチス独裁に道を開いたワイマール憲法の経験が示しています。
― 最近、国民の命を守るために、敵基地攻撃能力を持つことが必要だと一部の政治家が言います。ウクライナ危機に乗じて、「核共有」の議論をすべきだとも言い出していますが。
長谷部 国民の生命と財産を守ることは、政府の第一の役割であるが、だからといって、敵基地攻撃能力を持つべきだというのが本当に国防に資するでしょうか。特定の「敵基地攻撃能力」を持つことがかえって周辺諸国の軍備増強をもたらさないか。「敵というのは我々のことか」という構えを他国にとらせるリスクをどう考えるのか。憲法9条との関係で、従来の急迫不正の侵害行為に対する必要最小限の「対処」を超えて敵の攻撃の「抑止」をはかろうとする敵基地攻撃能力保有論は、専守防衛の域を超えているのではないかという懸念も生じます。しかし、憲法9条に違背するかどうか以前の問題であることを考えるべきです。
― ロシアがウクライナを侵略している現実が、日本国内の9条論議に示唆を与えることはありますか。
長谷部 9条は国家間に対立が生じたとき、双方が対等な立場で、いずれの主張に理があるかを「決闘」によって決着をつける戦争、つまり「国際紛争解決の手段としての戦争」を放棄し、そうした戦争の遂行能力である「戦力」を否定することに眼目があります。同じく国際紛争解決の手段としての戦争を違法化した不戦条約(1928年)も、自国への急迫不正の侵害に対処するための自衛権の行使は排除していません。9条も立憲主義を基底とする現在の日本の政治体制を守るために必要最小限で実力を行使することを認めていることを、思い起こさせてくれていると思います。無論、自衛隊の存在を憲法に書くために9条を改正すべきだという主張を認容する論理ではありません。
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今月の俳句
ひとところ水輝きて渓(たに)若葉
友送る喪服の重き街薄暑(まちはくしょ)
やはらき風丸く吹く雪柳
表札のうすれて読めぬ花曇
晴嵐(あおあらし)豆腐の水を揺らし過ぐ
教会の十字影濃き初夏の午後
高 島 つよし
本名 高島剛 常総市在住、句歴七十年 元茨城県職員 元小貝保育園長、当研究所顧問
事務局たより
第4回理事会のご案内
日 時 : 6月15日(水)午後6時30分
場 所 : 水戸市「ミオス」2F第1小研修室
東海第2原発避難計画の調査について
第48回総会議案について
その他
第48回総会のご案内
日 時 : 7月17日(日)午後1時30分
場 所 : 茨城自治労連会館
記念講演 : 「脱炭素転換と地域社会」
講 師 : 産業技術総合研究所
主任研究員 : 歌川 学 氏
寄 稿
国際小規模漁業年2022」と日本の漁業政策
二平 章(茨城大学客員研究員)
1 持続可能な社会づくりと漁業
1972年ストックホルムで開催された国連人間環境会議以降、地球環境保全のための指導理念として登場したのがSD(サスティナブル・ディベロップメント:永続可能な発展)であった。次世代の人びとのために地球環境を守り、自然資源を絶やすことなく永続的に利用し続けていこうというよびかけである。
この理念は、地球サミット(国連環境開発会議1992年)で「リオデジャネイロ宣言」として採択された。「持続可能な社会づくり」の合意文書として人類史に残る宣言である。この宣言を受けて漁業分野でも1994年に「海の憲法」と呼ばれる「国連海洋法条約」が発効、1995年にはFAO(国連食糧農業機関)が「責任ある漁業のための行動規範」を採択、環境や次世代の人類にも配慮した水産資源の持続的利用を実現するための行動規範を提示した。
2001年には、マグロなど高度回遊性魚類の保存と管理および国際的協力を規定する「国連公海漁業協定」が発効、それ以降に発効したマグロ類の地域条約、たとえば中西部太平洋まぐろ類(WCPFC)条約(2004年発効)や新全米熱帯まぐろ類(IATTC)条約(2010年発効)などでは、SDの理念にもとづく混獲生物の保存措置や海洋環境における生物多様性保護などの明確な条文が記載されるようになっている。
2 国連における農業・漁業政策のパラダイムシフト
世界の農業・食糧政策は21世紀初めまで、小規模家族農業を「非効率」「時代遅れ」として、農業を大規模化、工業化、企業化する目標を掲げてきた。しかし、2007・2008年に世界的な経済危機、食料危機がおきると、それを契機に貿易自由化や新自由主義的政策の流れに抵抗する農民運動や市民運動が活発となった。
国際社会では農薬や化学肥料を多量に使用し、効率性を重視し、農地収奪をすすめる工業的な農業ではなく、環境にも社会にもやさしい家族農業を重視する運動が顕在化した。これらの農民・市民の運動はついには国連を動かし、2011年には国連総会が「国際家族農業年2014」の設置を決め、2014年には各国で「国際家族農業年」の関連イベントが開催された。
国連は大規模化・企業化促進の農業政策から、小規模な家族農業を再評価・重視し、その強化をめざす政策に大きく舵を切ったのである。国連がいう「家族農業」には「小規模家族漁業」や「畜産業」の意味が含まれている。さらに、2015年に国連は、「持続可能な発展のための2030アジェンダ」を採択し、2030年までに達成をめざす17の目標を明確化した。
これがSDGs(エスディージィーズ:持続可能な発展目標)である。また、FAOは「責任ある漁業のための行動規範(1995)」を補完するものとして、2015年に「FAO持続可能な小規模漁業保障のためのガイドライン」を策定、世界の漁獲漁業者の9割以上を担う小規模漁業の貢献を重視し、小規模漁業の保護と持続的発展強化のための政策と法的枠組みを各国がつくるようガイドラインを提示した。
また、国連は、SDGsを実現するために不可欠なのが「家族農業(漁業)」であるとして、2017年に 国連「家族農業の10年(2019~2028)」、2018年には「農民と農村で働く人びとの権利宣言」を総会で決議した。このように国連は、SDGs達成へ向けて、各国に「家族農業」や「小規模漁業」の権利の尊重と振興施策を推進するよう呼びかけた。SDGsには17の国際目標の下に169のターゲットと232の指標が定められている。目標14には「海の豊かさを守ろう」があり、ターゲットに沿岸環境の保全や小規模漁業者への経営配慮の記載がある。
3 2022年は「国際小規模漁業年」
SDGsと「小規模漁業」の持続的発展強化の目標達成をめざし、国連は2022年を「小規模伝統漁業・養殖業に関する国際年(略称:国際小規模漁業年2022)」と定めた。「国際小規模漁業年2022」は、2016年の第32回FAO水産委員会(COFI)で提案・承認され、2017年の第72回国連総会において国連の国際年の一つとして宣言されている。
「国際小規模漁業年2022」は「規模は小さいが、価値は大きい(Small in scale, big in value)」をスローガンに掲げ、①小規模伝統漁業・養殖業の認知度を高め、理解を深め、その持続可能な発展、特に食料安全保障と栄養促進、貧困撲滅および天然資源の利用への貢献を支援すること、②小規模伝統漁業・養殖業に従事する漁業者、養殖漁業者、バリューチェーンに関わるその他の関係者および政府関係者の間の意思疎通と協力を促進し、漁業・養殖業の持続可能性を促進するための能力および社会的開発と健全性を高めることなどを訴えている。
世界で漁業を営む1億4千万人のうち実に90%は、小規模な家族漁業者であり、その家族漁業が魚介類消費量の60%以上を供給している。国連はその現実と重要性を世界各国が認識し、健全な食料システム構築に向け小規模漁業の持続可能な発展を保証するために、国際年として小規模漁業への支援強化を各国へ呼びかけたのである。
4 日本漁業の衰退と戦後漁業法の改悪
日本の漁業経営体は全体で7万9067経営体あり、そのうち沿岸近くで操業する10トン未満の小型漁船漁業経営体数は5万6965、海面養殖業は1万3950、定置網漁業は3236である(2018年漁業センサス)。
これらが沿岸漁業に区分され、この沿岸漁業経営体が全体の93.8%を占める。沿岸漁業のうち海面養殖業や定置網漁業には一部企業や団体経営体があるが、沿岸漁業の9割以上が小規模家族漁業である。中小漁業経営体(10~1000トン規模)は862(6.1%)、大規模漁業経営体(1000トン以上)は54(0.1%)にすぎない。
中小漁業のうち10~20トンに区分される漁船漁業経営体は3339あるが、この階層漁業も家族経営が大半なので、日本漁業はほとんどが地域に根ざした家族経営であるといえる。しかし、この沿岸漁業経営体は1993年には16万2795経営体あったが、この25年間で実に46%にまで減少してしまっている。
沿岸漁業の衰退とその要因
日本全体の漁業生産量は1980年代後半から、沿岸、沖合、遠洋漁業とも減少した。要因は遠洋漁業では200海里体制の進展で諸外国の水域から日本船が締め出され漁獲量が減少したこと、沖合漁業では資源変動を繰り返すマイワシの漁獲量が90年代以降減少したこと、沿岸漁業では沿岸開発などで浅海漁場環境が喪失したこと、また漁業生産者数の減少などが影響している。
新自由主義者や規制改革推進論者らは、沿岸漁業の衰退要因を魚類資源の減少と漁民による「乱獲」にあるかのように描くが、それは間違いである。沿岸漁業衰退の直接的な原因は、重化学工業や商業資本優先の産業政策の下で、「自由化」による安い輸入水産物の流入や所得保障・価格保障政策の不備、そして稚幼魚の生息環境を破壊する内湾の埋め立てや、海砂利の採取、森川海の連携生態系を破壊した河口堰やダム建設にあった。
このような要因について、規制改革論者らは政権や企業批判になるためか触れたがらない。
EUでは、90年代から共通農業政策・共通漁業政策に①食料の安全保障 ②持続的な発展の保障(所得保障・価格保障)③環境の保全などを掲げ、自国の食料産業を保護してきたのに対して、日本では先進国最低の食料自給率37%(2020年度)に現れているように、長く続く保守政権に日本の農業や漁業を守り発展させる確固とした基本目標・食料政策がなかったことが、農業・漁業を衰退させた根本的な原因である。
新自由主義者や規制改革推進論者らはこのことには触れず、漁業の縮小原因を戦後漁業法に基づく漁業制度のあり方、①企業的経営体が自由に参入できない漁業許可・漁業権制度と、②投資と操業の自由化を可能にするはずの漁獲量割当方式を部分的にしか採用していない資源管理に求め、漁船別漁獲量割当量方式の徹底と企業的経営体の操業・投資の自由化によってのみ、その状態を改善できると主張して、自公政権に戦後漁業法を改悪させ、2018年12月に新漁業法を制定、企業経営体が海を私有地のように利用できる体制移行への道を開いたのである(加瀬,2020、二平,2020a)。
5 企業がねらう「漁業権」
海面には農業のような個人所有の「農地」はなく、地先資源を守り地元の沿岸漁民が優先して地先漁場を利用できる制度として漁業権漁場制度がある。漁業権漁場は、距岸3km以内の狭い範囲に限定されている。漁業権の種類には、アワビやサザエ、ワカメやコンブ、タイやシラスなど地域的な資源を対象に地区漁民が小規模な漁船と漁具で漁業を営む「共同漁業権」、専有水域に定置網を設置し、マグロやサケ、ブリなどを獲る「定置漁業権」、湾内にクロマグロやサーモン育成用の生簀(いけす)や、カキやホタテ養殖用の筏(いかだ)を設置して、養殖業を営む「区画漁業権」がある。企業資本が利潤追求で取得を狙うのは今のところ「定置漁業権」と「区画漁業権」である。
盛り込まれた企業参入条項
新漁業法には、海面での企業活動促進のために次のような内容が盛り込まれた。
(1)漁場計画作成の際に、知事は区画漁業権を個別漁業権と団体漁業権に分離し、個別漁業権を企業に直接免許できることにした(新法62条)。
(2)定置漁業権や区画漁業権について、旧漁業法では地元漁民・漁協優先の順位が定められていたが、外部企業の参入が容易になるよう、その優先順位を廃止し(63条73条)、漁協組織に所属しない外部企業に県知事が直接免許できることにした。
(3)個別区画漁業権、定置漁業権免許を有する者には、継続して免許が与えられ、かつ抵当権設定が容易となり(新法73条78条)、一度免許を受けた企業は、安定的に免許が受けられることにした。
(4)新規漁場、空き漁業権については、「地域の水産業の発展に最も寄与すると認められる者」に免許するとする「あいまいな基準」をつくり、地元優先要件を設けることなく外部企業の参入を容易にした(新法73条)。
(5)国が魚の全体漁獲可能量(TAC)を決め、大臣許可漁業と県知事許可漁業への配分量を定めることにし(新法15条)、国が配分決定権を持つことで、クロマグロのように大臣許可漁業(少数の企業資本漁業)に有利な配分を可能にした。
(6)船別に漁獲量割当(IQ)を設定する制度をつくり、その割当を譲渡移転可能(ITQ)とし(新法21条22条)、資本にまかせ漁業の寡占化を可能にした。
(7)個別割当(IQ)を受けた大臣許可の企業大型まき網や沖合底びき網漁船の隻数、トン数規制をなくし自由に大型化できる許可制度にした(新法43条)。
(8)漁業調整委員会委員を公選制から都道府県知事任命制に変更(新法138条)し、知事の意向に沿う人物らを委員に任命できる制度にした。
2023年は漁業権の一斉更新
新漁業法は、「水産資源の保存および管理」を筆頭に掲げ、あたかも「水産資源の持続的な利用」をめざした法律であるかのような装いをとる。しかし、漁業法改定の本当のねらいは、成長産業化の名のもとでの海面への企業参入と、参入障壁である漁業権、漁協、漁業調整委員会の弱体化、および資本漁船への各種規制事項の撤廃である。
新漁業法を具体化するプランとして今年3月には今後5か年間の「水産基本計画」が閣議決定された。そこには国連の掲げる目標であるSDGsや「家族農業(漁業)10年」、「国際小規模漁業年」に関する記載は一切ない。
2023年には新漁業法が成立して初めての漁業権の一斉更新が予定されている。共同漁業権は従来どおり漁協にのみ免許されるが、定置漁業権、区画漁業権は、漁協が優先して免許される規定が廃止され、民間企業が免許申請できる。
県は漁協と民間企業等の調整を行い、漁業経営者に直接免許される個別漁業権と、漁協が免許を受けて組合員間の調整を図りながら漁場を利用する団体漁業権のいずれかで免許設定するかを判断することになる。仮に養殖漁業などの区画漁業権が私企業に直接免許されることが起これば、漁場には漁協免許の漁民の養殖施設と漁協に所属しない私企業の養殖施設が併存することになり、両者間のあつれきが高まるのは必至である。
戦後長く続いた漁協を中心とした漁場の協同利用秩序体制が直接免許制度で崩壊していくことが心配される。
TAC(総漁獲量)管理で、沿岸漁民に経済損失
また、水産基本計画では、2023年までにMSY(最大持続生産量)ベースの資源評価にもとづき漁獲量ベースで8割に当たる魚種に対してクロマグロと同様なTAC(漁獲可能量)による漁獲量の規制管理を行うとしている。これにはキンメダイをはじめとした沿岸漁業が対象とする多くの魚種が含まれる。
そもそも親魚量と産まれる子の加入量の関係を表す再生産関係に基づくMSY理論に対しては、合致するデータが実際には存在しないとする元水産政策審議会会長でもある水産資源学者の厳しい批判(櫻本2020)がある。
もともと仔魚の生き残りが海洋環境変動に大きな影響を受けるからこそ、海産魚には1尾で数十万もの卵を産む小卵多産型が多い。
海の世界では親の数が多いから、子がたくさん生き残るとは限らず、また、親が少なくても子が大量に発生することもよくある現象である。自然現象に適合しない架空の再生産モデルを元に漁獲規制され経済的損失をこうむるのは漁民である。MSYモデルによる数量推定が失敗しても官庁の誰も責任は取らない。
多種多様な魚種を多様な漁法で漁獲する沿岸漁業にあっては、漁民集団の協同管理体制をつくり、自治体研究機関の協力をもとに毎年の幼魚加入量のモニタリングを充実しながら、漁具や漁期、操業日数を調整しながら、小型魚を保護し資源の持続的利用を図っていくことが重要である。すでにこのような漁民の自主的な管理体制は全国にある。このような自主的漁民の管理体制強化の道こそ王道なのである。
6 小規模漁業の多面的な役割
離島や半島部も含め、日本の海岸線の総延長距離は3万5308㌔。その海岸線に6298、平均で5.6㌔ごとに一つの漁村集落がある(平成27年度水産白書)。日本全国の津々浦々に漁業産業があることで、交通不便で条件不利地といわれる離島や半島部地域の雇用を守り、地域経済を支えている。そこに住む漁民が沿岸漁業を営み、海の環境や漁村の文化を守っている。
漁民は、魚介類を生産することが本来の仕事であるが、そのほかに、
①稚魚が育つ藻場や干潟を守り、海浜や河川などの清掃や漁民の森づくりなどを行いながら美しくて豊かな海づくりをする活動
②海難事故が起こった時にはボランティアで船を出して人命を救助する活動、
③交通不便な離島や半島部でも漁業をしている人々がいることにより海外からの密入国や密輸、領海侵犯などを監視して国境を守り国民の命と財産を守る活動
④海水浴や釣りなどの海洋レクリエーションや民宿、体験学習などで海でのやすらぎの場を都市住民に提供する活動
⑤伝統漁法や魚食文化、海にまつわる信仰や祭りなどの漁村文化を継承する活動
など日本人と国土にとって大切な役割を果たしている。
全国津々浦々に沿岸漁民がいるからこそ、海の環境が守られ、多彩で新鮮、美味な魚介類が国民に提供され、私たちの食と健康を支えてくれているのである。
7 おわりに
「家族農業(漁業)の10年」「国際小規模漁業年2022」にみられるように国連は、持続可能な食料生産のためには、家族農業、小規模漁業の果たす役割の重要性を高く評価し、これらの家族農業・小規模漁業の強化と支援を各国によびかけた。しかし、日本の漁業政策は、2018年に成立した「新漁業法」により、漁業調整委員の漁民選挙権や地元沿岸漁民の優先的な漁業権、さらに沿岸漁民による釣り漁業などの資源にやさしい漁法の漁獲権利までも機械的な数量規制(TAC管理)で奪い、さらに企業漁船優遇の船の大型化まで進めようとしている。
日本の漁業政策は小規模漁業重視の国際的な流れとは真逆な企業漁業重視の道を進んでいるといえる。「国際小規模漁業年」にあたり、国連と日本の漁業政策の相違点について改めて考えてみるべきである。
2030年のSDGs達成に向けて、新自由主義政策の下で改悪された日本の漁業政策をもう一度、沿岸小規模漁業、伝統漁業、地域漁業重視に転換させる必要がある。
【参考文献】
加瀬和俊(2020)新漁業法下の沿岸漁業.経済4月号.新日本出版社,
二平 章(2020a)新漁業法で強まる海の企業支配.農業と経済,3月臨時増刊号,昭和堂,141-151.
櫻本和美(2020)ここが問題!新しい水産資源の管理.デザインエッグ社.269pp.
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今月の 川柳
GW人があふれて命萌え
田植えうた早乙女の声今どこに
コロナ禍を逆手にとって改憲論
値上がりに懐ピーピー鳴いてます
硝煙もなくて列島花ざかり
知床は昔は旅情今なみだ
北方にロシアがいるとボケ老人
偏見と差別ただよう美らの海
雨がえるこつ然として天をつき
泉 明 羅
(泉明羅・本名 福田正雄 水戸市在住、句歴 四十二年、所属 元吉田川柳の会)
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新刊紹介
どう考える 公共施設の統廃合・再編、民間化
―公共施設等総合管理計画と指定管理者制度―
角田英昭 編著
A5版・32頁 地域研割引単価300円(定価400円)
現在、公共施設の統廃合・再編が急ピッチで進められています。
その基軸となるのが公共施設等総合管理計画です。この計画は、これまでのような自治体による個別、施設ごとの統廃合・再編に止まらず、中長期的な視野に立って全面的に見直し、施設の総量削減、経費抑制を国主導で推進していくものです。
また、公共施設の管理・運営については、国は指定管理者制度を先行して実施し、管理運営委託、民間化を全面的に推進しています。総務省資料によれば既に7万7千超の施設に導入されていますが、実際の運用では、指定取り消し等が過去最高を更新するなど様々な問題、課題が指摘され、その見直しは急務になっています。
改めて公共施設とは何か、どうあるべきなのか、それが根本から問われています。 「公の施設」とは、住民のライフサイクル全体を通して福祉の増進を図り、地域の社会経済活動の基盤をつくり、まさに自治体の仕事の根幹をなすものです。
こうした状況を踏まえ、今回、自治体問題研究所では公共施設のあり方、統廃合・再編、民間化を考えるブックレットを作成しました。今年3月に公表された2021年「公の施設の指定管理者制度導入状況等調査」の概要も掲載しました。是非お読み頂き、地域、職場での学習と政策づくり、運動に役立てていただければ幸いです。
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デジタル改革と個人情報保護のゆくえ
ー「2000個の条例リセット論」を問う ―
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デジタル改革関連法の成立により、住民の個人情報は“利活用"する方向が示され、個人情報保護条例は国の法律に合わせて「改正」を強いられ、その監督権限も国に一元化される方向へと動きだした。本書では、地方自治の視点から、デジタル改革関連法における個人情報保護法制の内容を検証するとともに、住民の権利と団体自治を守るための自治体の課題や条例の論点を具体的に考える。
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ー 生活・生業の再建、地域社会・地域経済の再生に向けて ー
鈴木 浩著
A5/258頁 定価(価格3200円+税)
東日本大震災・福島第一原子力発電所事故による原発災害から10年が経った。被災者の生活再建と、被災地の地域社会の再生はどこまで進んだのか。災害発生直後から福島県と浪江町、双葉町の復興ビジョンや復興計画の策定、そして仮設住宅の供給についての計画づくりに関わり、「ふくしま復興支援フォーラム」を立ち上げた著者が、被災者、被災地そして自治体のいままでの取組みとこれからの方策を語る。10年は決して区切りではない。再建、再生の実際を問う。
再生可能エネルギーと環境問題
傘木 宏夫著
A5/162頁 定価(価格1600円+税)
「脱炭素」「脱原発依存」といった社会的要請を背景に、再生可能エネルギーの普及に対する期待が高まり、同エネルギーで発電した電気を電力会社が買い取るFIT(固定価格買取制度)制定後、各地で開発が進んでいる。しかし、開発による山間地の森林伐採、景観破壊など様々な問題が地域社会で噴出。本書では、開発が自然環境との調和を図りつつ、地域社会の利益に繋がるように進めるには、地域の側に主体的な力が育つ必要があることを説く。
子どものための児童相談所
ー 児童虐待と子どもへの政治の無関心を超えてー
浅井 春夫編著
A5/176頁 定価(価格1700円+税)
2020年、20万5029件(速報値)の「子ども虐待相談」が全国の児童相談所に持ち込まれた。全国の児童相談所は225か所、対応する児童福祉司は4553人。この現実のなかで、子どもに寄り添い、家族に寄り添う児童相談所のいまを伝え、改革の方向を模索する。
子どものための保育制度改革
中山 徹著
A5/108頁 定価(本体価格1200円+税)
2013年から待機児童解消が政策的に進められ、2015年には子ども・子育て支援新制度が始まり、2019年から教育・保育無償化もスタートした。2010年代の10年間は、保育制度、保育施策それと連動して保育所などが大きく変化した。そして、今、保育所、幼稚園、認定子ども園は岐路に立っている。質を犠牲にした量の拡大、行政責任の後退等、だれのための制度改革だったのか。2025年、保育所利用者は減少に転じる、ここで「子どものため」の保育を真剣に考えなくてはいけない。保育環境の改善に舵を切り本当の少子化対策の必要性を説く
〈コロナ〉と並走する新シリーズ全5巻
コロナがあばく社会保障と生活の実態
コロナと自治体3
伊藤周平編著(鹿児島大学教授)
瀬戸大作(反貧困ネットワーク事務局長) 楠本美紀(兵庫県明石市議会議員) 著
A5判・並製カバー・124 頁/定価1430 円(10% 税込)
ココロナで明らかになった社会保障の脆弱さを、医療・介護、雇用政策の観点から検証し、是正策を提示。また、生活困窮と貧困の状況を具体的に示して、支援に奮闘する民間団体の活動を跡づけ公的支援の必要性を訴える。市民生活に即した支援策を展開する兵庫県明石市の取組みも伝える。
【シリーズ既刊】1新型コロナウイルス感染症と自治体の攻防 定価1650 円
5「学び」をとめない自治体の教育行政 定価1430 円
【シリーズ続刊】2感染症に備える医療・公衆衛生 / 4コロナと地域経済 体
<目次>
第Ⅰ部●コロナがあばいたもの
1 コロナ禍があばく社会保障の脆弱さと政策課題
コロナ禍で明らかになった医療政策の問題点と課題/コロナ禍で明らかになった介護政策の問題点と課題/コロナ禍で明らかになった雇用政策の問題点と課題
第Ⅱ部●コロナに対応するネットワークと自治体
1 「死のうと思ったが死ねなかった。最後だと思いメールした」
コロナ災害ではなく政治の責任による人災/新型コロナ災害緊急アクション/追い詰められている生活困窮者自立支援の現場/コロナ禍が浮き彫りにした移民外国人の「平等性」からの排除と差別
2 兵庫県明石市の市民生活に即したコロナ対応
保健所がどのような役割を果たしたのか/コロナ対策としての市独自の17 の施策/新型コロナウイルス感染症の患者に対する支援及び差別禁止に関する条例の制定
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●基礎からステップアップまで ー パソコンを用いて財政分析ができる
さまざまなかたちで財政情報の開示が進められているなか、財政資料の使い方と財政分析する際のポイントを示します。基礎編では、「決算カード」を活用した財政分析の基本を丁寧に紹介し、ステップアップ編では、「類似団体比較カード」の見方、「特別会計」や「補助費等」の分析と「合併自治体」の財政分析などを詳しく解説します。そして発展編として、統計局が管理するウェブサイト(e-Stat)から「地方財政状況調査」のデータの抽出と財政分析方法について、パソコンの操作を示しながら解説します。
なお、オリジナルの「決算カード」の財政分析表と「財政状況資料集」を更新しました。
目次より
財政を学ぶ心構え・分析法方法 赤字か黒字かをみる「決算収支」赤字団体?黒字団体?
自治体の収入はどれくらい?(歳入をみる)四大財源/一般財源と特定財源/経常と臨時/地方税 地方交付税のしくみ/財政力指数 ほか