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『本県の情勢と私たちの課題』

第20回 わたしたちのまちづくり学校基調提起

『本県の情勢と私たちの課題』

茨城自治労連自治研部長 飯島紀幸

1.地方自治をめぐる状況

 憲法には、国民主権、平和主義、議会制民主主義などとともに、地方自治が明確に位置づけられ、それぞれの地域で地方自治の実践が行われてきました。

◎地方自治とは何か

 「地方自治憲章運動をすすめる会」が1997年に発表した「地方自治憲章草案」には、「住民の平和的に生きる権利や健康で文化的な生活を営む権利など基本的人権を保障することである。」と書かれています。
 また、1947年に文部省が出した「あたらしい憲法のはなし」には、自分で自分のことをやっていくことを「自治」といい、地方ごとに自治をやることを「地方自治」というのです。と書かれています。
 改正前の地方自治法の第2条に地方自治体の事務の例示というのがありました。その1番に出てくる事務の内容は、「住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」となっています。つまり、何はさておいても、住民の安全、健康と生活を守ることが地方自治体の第1責務なのです。ですから、この規定どおりに自治体が仕事をしているならば、「老老介護」や「自殺」などの問題が起こることはないのです。私たち自治体労働者は反省し仕事に当たらなければなりません。

 ◆地域のくらしと仕事の実態(全国・茨城の状況)

◎雇用情勢
 アメリカのサブプライムローン問題に端を欲した世界的な不況により、日本も例外なくこの不況の波を受け、マスコミで何度も取り上げられた派遣切り、非正規労働者の解雇が数多く行われています。
 5月1日に茨城労働局が発表した「非正規労働者の雇止めの状況」では2008年10月から2009年5月までの雇止め数は4,352人で、特に12月(年末)は879人、3月(年度末)は1,277人と多くなっています。(把握しきれていない事例もあるので実際にはもっと多いのでは…)

 また、資料にあります3月の県内雇用情勢をみてみますと、有効求人倍率は0.49倍となっています。労働局は、県内の雇用情勢は、求人数の減少が続いており、求職者数の急激な増加から前月比で10カ月連続低下しており厳しさを増していると判断しています。資料には間に合いませんでしたが、5月29日に発表されました4月の有効求人倍率はさらに下がりまして過去最低の0.45倍となっています。
 全国的にみてみますと、総務省が5月29日に発表した4月の有効求人倍率と完全失業率ですが、有効求人倍率が0.46倍(17か月連続で1倍を割り込んでいる)、完全失業率は5%(2003年11月以来の5%台)となっています。ちなみに1番有効求人倍率が高かったのは香川県で、それでも1倍には満たず0.74倍となっています。このように茨城県を含め全国的に雇用情勢は厳しくなっています。

◎地域の暮らし

 では、このような状況下で人々のくらしはといいますと、厚生労働省が実施した「国民生活基礎調査」によれば、2000年にはじめて「生活が苦しい」の回答が50%を超え、それ以後も増え続け平成20年度の調査では57.2%となっています。特に子供がいる世帯では62.1%の方が苦しいと回答しています。
 また、内閣府の「国民生活に関する世論調査」では、生活に悩みや不安を感じる人が約71%になっています。
 このことは、私たちの暮らしている茨城県も例外ではありません。茨城県が平成20年度に実施した「県政世論調査」では、生活が苦しくなったと答えた方が46.7%になっています。(資料参照)
 この調査でいままでと変わらないと回答した人が約5割いるわけですが、資料のグラフを見ていただくとお分かりになるかと思いますが、平成16年から今回まで楽になったと回答した人は毎年1割にも満たず、苦しくなったと回答した方が4割から5割近くなっています。ということは、今回変わらないと回答した人の多くは、昨年と比べれば生活は変わらないがその前、もしくはその前に苦しくなっていてその苦しいまま変わらないと回答しているのではないかと考えられます。

 このように多くの方が苦しい生活を送っているわけですが、県民は県に対して今1番何を望んでいるのかといいますと、この「県政世論調査」の県政への要望では、医療サービス体制の整備と高齢者福祉対策が他の要望を大きく引き離し1位・2位となっています。(資料参照)
 ところが、現状はといいますと、全国との比較では(県:統計情報)

保育所数 36位
知的障害者援護施設定員数42位
老人ホーム定員数37位
一般診療所数 45位
医師数 46位
看護師・准看護師数43位
保健師数39位

と医療・福祉においてかなり低いレベルになっています。しかし、茨城県の財政状況を全国と比較してみると、

県内総生産 12位
財政力指数  8位

となっており、決して財政的に弱いわけではありません。問題はどこにお金を掛けどのように使うのかということです。

 例えば、常陸那珂港開発では総事業費7300億円、霞ヶ浦導水事業では1900億円、そして、茨城空港では220億円と試算されておりますが、今後周辺の開発事業やアクセス道路などの整備費がさらなる負担となります。
 県民のこれらの交通体系の整備や開発事業への要望は、資料では4.7%、1.6%であり、医療サービス体制の整備、高齢者福祉対策に比べると大きな開きがあります。県はこうした結果をしっかりと受け止め、今後の行政に反映していく必要があると思います。そして、私たちはこの要望が実現されるよう、運動を強化していかなければなりません。

2.医療制度をはじめとする課題

 産院がない、小児科がない。高齢者を狙い打ちした負担の強化や病床の削減と混合診療を制度化する医療制度の改悪が強行されました。
 地方では、小児科、産婦人科医師不足が深刻になっています。特に本県の医師数、診療所数は全国的にみて最低と言わざる得ない状況ですから、昨今ニュースで地域医療の崩壊、病院閉鎖などで取り上げられている、これまで地域医療を支えてきた自治体病院の役割が一層重要となってきています。
 私が暮らしている筑西市でも、自治体病院(筑西市民病院)がありまして、前市長は民間移譲という方針を打ち出し、プロジェクトチームを立ち上げ、それに向けて動いておりました。しかし、4月に行われました市長選挙で市長が代わり、現在その動きは一時中断している状態です。今後どうなるか、予断を許さない状態ですが、茨城県の地域医療を守るためにも、わたしたちは市民病院の存続を目指し、運動を強化していきたいと思います。

 小泉内閣が進めてきた規制緩和と小さな政府づくりによって、自治体では民間委託や指定管理者導入が広まっています。本来は市民に学ぶ権利の保障や健康づくりに寄与する公共施設が利潤追求の場に変わるのです。しかも、ゆりかごから墓場までといわれるように、総合的にまちづくりを進める自治体にとっては、その一部が欠けることになり、自治体の存在そのものを危うくします。
 県内の自治体は平成の大合併により44市町村となり、激減しました。合併により自治体ごとの財政規模は大きくなっていますが、財政事情が改善されたわけではありません。合併したところは合併の効果を出すためにサービスの切り捨てと職員の削減を進め、合併しないところも、合併しないことを理由にサービスの切り捨てと職員の削減を進めています。いずれの道を選択したとしても結果は同じです。労働者の賃金引き下げや待遇悪化は、行政の質の低下のみならず地域経済にも悪影響を及ぼすものです。

 次に、社会全体で支えるとして始まった介護保険制度はどうでしょうか?保険料の引き上げと食事や居住費の負担に堪えられず利用をあきらめる方も増加しています。
 一方、障害者福祉の分野では、支援費制度が財政的な破綻により、障害者から利用に応じた負担を求める制度に大きく変わりました。その結果は、介護保険と同じようにサービス利用を控えたり、施設を退所したりという信じられない事態に陥っています。
必要な人が必要な時に必要なだけ利用できるとしていた国の説明は崩れています。

 このような制度変更の被害者は利用者だけではありません。事業者も、そして最前線にある自治体と自治体労働者にとっても辛い状況になっています。関係者が協力し、改善を求めていくことが必要です。

3.わたしたちがめざすまちづくりの方向

 私たちがめざすまちづくりの方向ということですが、私たちには憲法があります。憲法13条には、生命、自由及び幸福追求に対する権利について、立法その他の国政での上で、最大の尊重を必要とすると定められています。一人ひとりの願いを叶えるためには、みんなで「本当の豊かさ」の共通認識をつくる必要があるのではないでしょうか。そして、「本当の豊かさ」をつくるためのルールづくりの必要だと思います。
 また、憲法12条には、「この憲法が保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」とあります。みんなが参加できる方法で切れ目なく努力することが求められています。

 20回を重ねるこのまちづくり学校もそうですが、私たち自治労連も参加している県民要求実現共同運動も大きな意義があります。県や各地域に組織を持ち、いろいろな立場の人たちが、理解を深め、運動を進め要求実現のため前進しています。今後も引き続き努力していきます。
 そして、まちづくりの運動には、地方自治に携わる自治体労働者・労働組合の果たす役割は非常に大きくなっていると思います。
自治体労働者は、就職してまず初めに行うのが職務の宣誓であります。「全体の奉仕者として住民に奉仕する。」そして、「憲法を尊重し、擁護する義務を負う」という内容です。

 自治体労働者が、地域で起きている様々な問題をどれだけ真剣に向き合ってきたのか。住民の生命や基本的人権をどれだけ尊いものとして大切にしていかなければならないのかということが重要となっています。
 自治体には、専門性を持った職員だけではなく事務を中心とする職員もたくさんいます。その職員は、いろいろな職場を経験することにより、地域の財産や資源、課題や実状を把握することで、より良い住民のための仕事(サービス)ができるのだと思います。
 このような意味では、地域全体を見ながら仕事をする専門家の集まりのはずです。首長や議会が決定すると言っても、政策・事業を立案し、実践するのは職員に他なりません。自治体に働く職員が、いかに住民の立場に立って仕事をするのか、そして住民の方から支持してもらえるかが重要であると思います。
 現在自治体は、国の下請け機関となって、住民の「くらしと権利」をないがしろにするのか、住民自治を貫き、住民の生活と権利を守る砦となるのか、せめぎ合いが続いています。
「住民の繁栄なくして、自治体労働者の幸福はない。」という言葉があります。今、その輝きがいっそう増しています。

 住民と自治体労働者は決して敵対するものではありません。また、議会は住民の代表として政策をつくる、行政行動を監視することを役割としていますが、そのあり方について国で議論が開始されています。

 わたしたちは、このまちづくり学校での討論を通じて、住民、首長、議会、自治体労働者・労働組合が理解を深め、それぞれが堅く手をつなぐ一歩となることをお願いし、基調提起とさせていただきます。

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